ウィルside連行されたハル

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ウィルside連行されたハル

「おい、ウィリアム!ハルマが黒騎士に連行されたって知ってるか⁉︎」 想像もしなかったその言葉が、慌てた顔のケインから飛び出した瞬間、私は走り出していた。ハルマが黒騎士に連れて行かれた?どうして?まさか! 私は間に合うかどうかなど全く考えもせずに、馬車止めまで走った。そこにはいつもの光景しかなく、王宮の紋入りの馬車も既に無かった。 私は馬車止めの従者に、ここに黒騎士が居たのか尋ねた。すると従者は私の顔を申し訳なさそうに見つめて言った。 「…はい。一刻程前に、事務方のハルマ様を乗せて出立されました。」 私は握り拳を作ると、自分に冷静になれと叱咤した。そして私一人がどうこう出来るものでないと考えて、ハルマを良く知る副指揮官ならば、黒騎士に問いただせると思いついた。 私は急ぎ指揮官室へ向かい扉番に頷くと、はやる気持ちを抑えてノックした。 「ウィリアムです。お話があって参りました。」 私が中に入ると、丁度指揮官と副指揮官が両名揃っており、早速私はハルマが黒騎士に連行されて行った事を報告した。すると御二方も聞いていなかったのか、驚いた表情で顔を見合わせたんだ。 「私は何も聞いていないが、そもそも黒騎士は根回しなど必要としない存在ではある。これはどういう事か?」 指揮官が難しい顔をして呟くと、副指揮官も腕を組み頷いて言った。 「確かに黒騎士は王宮の警備のトップです。行使には独自の判断で行えると言う特権がありますからね。…しかしなぜハルマが。」 そこで私は、御二方に先日のハルが敵陣から逃れてきた事が、もしかしたら密偵だと疑われた可能性があるのでは無いかと話した。実際、ハルは姿を消してから、とんでもない場所へ出没したのだ。 疑おうと思えばキリがない。もし、ハルマが人間だったのならばだが…。しかし今私が、ハルマは馬のフォルでもあるのですと言ったところで、私の頭がおかしくなったと心配されるのがオチだ。 私は歯を食いしばって、どうにかしてハルの疑いを晴らしてやりたいと思った。すると副指揮官が立ち上がって、指揮官に頼んだ。 「では、私が事情を聞いて参ろう。一時は我々も疑いを持ったが、どう考えてもあの無害なハルが密偵だとは考えられなかったからな。恐ろしい思いをしてるのも不憫だ。ウィリアム、私に任せてくれるな?宜しいですか、指揮官。」 指揮官は副指揮官と私を交互に見つめて、肩をすくめてこう言ったんだ。 「まぁ、ダメだと言っても行くだろうから、行ってきてくれ。ハルマはこの騎士団の癒しだからな?早々に疑いを晴らしてやってくれ。」
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