初めてのひとりぼっち

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初めてのひとりぼっち

僕は充てがわれた、こじんまりした何も無い部屋で独りベッドに座り込んでいた。副指揮官は黒騎士団に交渉してくれたけれど、はっきり僕が無害だと分かるまで騎士団には戻せないと言うことになってしまった。 これから僕はしばらくの間、黒騎士団の監視下の元、生活するらしい。と言ってもこれからどうなるのか全く分からなくて、僕は途方に暮れていた。 きっとウィルも随分心配してるに違いない。もしかしてもう二度と会えないかもしれない…。そんな事を考えていると、どっと悲しみが襲ってきて、僕は顔を手で覆って項垂れた。 愛する人と引き裂かれた事が、こんなにもショックな事だとは僕にも意外だった。僕は悲しみと、自分の立場の不安定さで涙が溢れた。 この世界に来てから、もっと過酷な事があったのに、ウィルに会えないかもしれない悲しみは僕を弱らせた。それだけじゃなく、実際問題、荷物も何も無いから生活もままならないはずだ。 そう僕が涙に濡れた顔のまま、ガランとした部屋を見回していると、ドアをノックする音がした。僕は弾かれた様に立ち上がると慌ててドアを開けた。 そこには若い黒騎士が手に箱を持って立っていた。この人には見覚えがある。確か事情聴取の際に書記をしていた人だ。彼は無表情に僕を見つめると、箱を僕に渡して言った。 「…ここにとりあえず二、三日必要なものは入っている。あと一刻したら食事だから、それまでにその騎士団の服は脱いで着替えて。…迎えに来るまで、部屋からは出てはダメだよ。」 そう、言うことだけ言うと、踵を返して扉を閉めて出て行ってしまった。僕はため息をつくと涙を拭って、机の上に置いた箱の中を探った。 中に入っていた、入浴セットと着替えを手にすると、僕はシャワーを浴びて着替えた。シンプルな白いシャツに、濃いベージュのズボンを身につけると、鏡に映る自分の顔を見つめた。 悲しみに滲んだ、鏡の中の自分の顔を無理に笑わせて、僕は30日のうちに騎士団へ戻る事を決心した。僕は髪を念入りに整えて、いつものお洒落な自分を取り戻した。 そう、僕はどこに居ようとも、ハルマだ。弱みは見せない。明るく、楽しく、この世界を乗りこなしてやるんだ。僕は鏡に映る自分の瞳に力が戻った様に思った。 大丈夫。僕は、大丈夫。
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