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休養
「欅並木叙景」が春に行った「破滅の東京ドーム公演」から、グループとグループを取り巻く状況がすべて変わったのだった。
センターの藤高あい子の失踪は、江藤茉奈のライブすっぽかしデートを惹起した。次いで、馬場まりあ、阿部心愛、山田瞳による三木かすみに対するロッカー閉じ込め案件が、劇場側のスタッフにより週刊誌にリークされ、「欅並木叙景」のブランド力は地に落ちたのだった。
一つだけ持っていたテレビの冠番組は、スポンサーが手を引き突然休止に追い込まれ、グループをイメージキャラクターにしていた企業との契約も打ち切られた。ネット上は、グループに対する罵詈雑言であふれ、個人に対する度を越えた攻撃的な内容に対しては、会社が訴訟で対応し、事務所は同時にいくつもの裁判案件を抱えるに至った。
新しいシングルなど出せる状態ではなかった。
夏に発売を予定していたアルバムも、無期限延期となった。
グループとしてのツアーもテレビ出演もなくなり、個人でラジオの番組を持っているメンバー以外は、することが何もなくなった。
ダンスレッスンもボーカルレッスンもない。
私たちは時々集まってグループの今後や、自分たちの身の振り方について話し合ったけれど、運営と私達とは一定の距離感があり、私達だけで話して妙案が浮かぶはずもなかった。
そんな中で、突然発表されたのがやはり3列目メンバーである笹山咲の卒業だった。彼女は、小劇団出身のバイプレーヤー、電気光一さんと付き合っていたのだった。誰にもばれないように内緒で付き合っていたのはよかったけれど、妊娠しているのでは隠しようもない。
直接謝りたいと言った電気光一さんは、その裸電球のような頭を深々と下げ、涙を流して私たちグループメンバーに謝った。私は今まであんなに人に対して謝っている人を見たことがなかった。許すも許さないもない。自身も「欅並木叙景」の大ファンだという電気光一さんの涙の半分は、悔し涙だったのだ。
潮時だった。
運営はこれを機に、グループの無期限休養を発表した。
そして、昨日、私達に運営から一斉メールが届いたのだった。
それは、このままグループに在籍するかどうか、メンバー個々人に対する進退伺だった。「欅並木叙景」はついに解散するか否かの瀬戸際まで来ていたのだった。
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