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制服と太陽
6畳の私の部屋。
私は、キラキラ光る多摩川に向かう窓を大きく開けた。川風が窓から入り、開け放したドアから抜けていく。涼しい。なんだ、エアコンいらないじゃん。
ベッドと勉強机。
机の上のブックエンドには、高校一年の時の教科書が立っている。
私は、高校一年の途中までここから地元の学校に通い、吉祥寺に移ってからは、そこから通える芸能コースがある所に転校していたのだった。
この部屋の時間はそこで止まっている。
これは、中高の吹部で夢中になって取り組んだバスクラリネットだ。
あと、これは。
いや、こんなもの私、出しっぱなしにしてたかな。
押し入れの前の鴨居に掛けてあったのは私の地元の高校の制服だった。
シャツにブレザー、ネクタイ、チェックのスカート。
「おかあさん。私、高校の制服なんて出してたっけ」
私は、窓から顔を出し、ベランダで洗濯物を干している母に声をかけた。
「それね。天気がいいから昨日、干したんだよ」
「着てみていいかな」
「は?踊るの?そこで?」
高校の制服のような衣装がグループにあるのは確かだけれど。
「踊んないよ。着てみたいだけ」
「へえ」
私は、シャツとスカートを脱いで、その場で制服に着替えた。
制服を着る手順は私の手が覚えていた。
みるみる私は、高校一年生の別所鮎乃になっていく。
「いい匂い」
ブレザーから太陽の匂いがする。
お母さんが干してくれた制服の匂い。
私は、机の一番上の引き出しを開けた。
あった。
ケースの中に、あの頃かけてた眼鏡。
ぶっとい黒縁。ははは。
黒縁眼鏡をかけ、姿見の前に立った制服姿の私。
それは、部活に取り組みながら医大を目指し、がりがり毎晩遅くまで勉強していた、3年前の私だった。
「ここから、スタートだね」
私はスマホを出して、昨日、運営から届いたメールを開いた。
メンバーの進退伺。
<引き続き在籍>
<卒業>
二択のうちの、<卒業>にチェックを入れると、理由には。
<医大受験の準備のため>
と書き込んだ。そして。
<グループの解散には、断固反対です>
とその下に書き加え、私は送信ボタンを押したのだった。
<第3話 制服と太陽 了>
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