観覧車

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観覧車

しっかし減ったね。今何人?私達。 13人? 2年半前に20人でスタートしたメンバーが、もう7人卒業したのか。 活動始めたばっかで酒飲んで羽目はずした未成年の相田ハルヒ。 東京ドームから逃げて男とデートしてた江藤茉奈。 電気光一さんとの間に赤ちゃんができちゃった笹山咲。 別所鮎乃はいずれ辞めて医者になるって言ってたな、前っから。グループがこんなになったから受験の予定が繰り上がった。 わかんねえのが。 馬場まりあ、阿部心愛、山田瞳が、東京ドームで三木かすみをロッカーに閉じ込めたって一件。そんでライブ開演が30分遅れて、三木はショックで休養することになった。3人は卒業を余儀なくされた。 週刊誌はいじめ事件って、取り上げてたけどさ。 私、3人が三木をいじめてるところなんて見たことないんだよな。よく4人でつるんで遊んでたけどね。遊んでロッカーに閉じ込められてたところは一度、見たことがある。じゃんけんで負けたんだ。 でも、その時、閉じ込められたのは、馬場まりあ。三木じゃない。 普段からいじめがあったとか、週刊誌の情報、嘘っぱち。 某関係者の証言って、誰だよ。 そんな証言をした奴がいたかどうかも定かではない。 ただ問題はさ、現実にロッカーの鍵は最後まで出てこなかったってことで。 3人が隠したのか。いや、そんなことする奴らじゃないよなあ。 どこ行ったんだ、鍵。 「ねえ。高貝。さっきからずっとその話」 「ああ。うん。ロッカーの鍵はどこに行ったんだ」 「考えたってしかたないよ。私も一緒に探したよ、ごみ箱の中、カバンの中。スタッフに言われて、3人の服も体も全部チェックした。下着まで。ごめんねえ、だよ」 「もしかして、飲んじゃった?」 「鍵飲んだら死んじゃうよ」 「トイレに流した」 「トイレなんて行ってないって。部屋から出てない」 ふうん。 って、もうすぐ観覧車の頂点。これで3周目。 郊外の丘陵の中の遊園地。 眼下の給水塔が小さく見える。下を見ちゃいかん。脚がすくむ。 「真相は多分、本人だけが知ってるんだね」 「山田か」 「最後に鍵を渡されたのが山田だからね」 「うん」 「考えてもしょうがないことは考えるのやめよう」 そうだな。 観覧車の私の正面に座っているのは、箱崎音呼。 音呼、と書いて「ねこ」と読む。 年齢は私より一個下。20歳になったばかり。 箱崎と私は、9月の平日の遊園地に来ているのだった。 人気が全然ない。係の人も暇そうだ。 何に乗るにも列に並ぶ必要は全くなかった。 でも、よくよく考えれば、私は怖いものには一切乗れなかった。忘れてた。 可愛すぎるものも恥ずかしくて乗れない。 そうなると乗れるものは観覧車ぐらいしかない。 「一日フリーパスを買って、観覧車しか乗らないというね」 「悪いね。箱崎。悪いと思う」 箱崎、ほっぺをプクンと膨らませる。かわいい。 女の子だなあ。 「彼氏としてどうなの?それは」 「彼氏じゃねえよ」 箱崎が少し悲しそうだ。 「あのね。高貝」 「何?」 「私さ」 「うん」 「好きなの」 「え?」 「好きなのって」 「え?」 これじゃ、ギボランだ。 「私、高貝のこと、ぶちすきじゃけ」 箱崎は広島出身なのだった。
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