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I'm In
「「欅並木叙景」。今日は18人でやるつもりだったんだな。でも、江藤がいないから17人」
「・・・」
「逃げ出したんだ」
「・・・」
「欅並木叙景」が2年間活動を続けていくうちに、そのグループ全体の輪郭がはっきりしてきた。
センターの、藤高あい子。
その両脇を固める最年少の、名雪鞠と川平らら。
そして、2列目の、佐々木林檎、中森ひよこ、平子湊、岩倉なつ、棚橋真澄。
このフロント8人と、その後ろを務める3列目との実力差、人気の差がはっきりとしてきたのだった。8人と3列目はいつの間にか、まったく違う世界にいるようになってしまった。両者の間の溝は深かった。
そんなところに突然降ってわいたような、センターの失踪。
公演中止も検討された事態は、しかし、代理のセンターを他のメンバーが務めることで強行されることが決まった。
大方の楽曲は、フロントメンバーの8人の内の誰かが代理センターに立つことになったが、なぜか一曲、3列目の私にセンターが回ってきたのだった。
曲名は。
I'm In
「運営は、私が一番踊りが下手で、歌も下手なのを承知で、私に、I'm Inのセンターを振ったんだ」
「もう一つ言っていい?」
「何?」
「江藤が、一番やる気がないからじゃねえ?」
「え」
「ばれてるよ。そんなの。テレビのこっちからでもわかる。箱推しなめんな」
I'm In、は、フロントと三列目の分裂を危惧した運営が、メッセージを歌詞に託した楽曲だった。
私も、大きな船を動かす欠かせない船員の一人。
I'm In
「江藤をさらし者にしようとするはずないよな。奮起してほしかったんじゃねえの?お前に。託されたんじゃねえのかって」
「・・・」
「でも、お前は、逃げ出した」
藤高あい子の代わりにセンターなんてできない。
私にセンターなんてできるはずがなかった。
実力もないし、そんな根性もない。そもそも、そんなことをするためにアイドルになったわけでもない。そんな覚悟は初めからなかった。
それで私は、公演のリハーサル中に逃げ出し、駅のトイレからタクシーの運転手をしている松下を呼んで、今、実家へと向かっているのだった。
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