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東京ドーム公演
「破滅の東京ドーム公演」と言われた2週間前の私たちのライブ。
初めての東京ドームだった。みんな楽しみにしていた。準備も念入りに行っていた公演が破滅へと向かった端緒は、センターの藤高あい子の失踪だった。
急遽、代理センターを置き形だけ整えたけれど、当日のリハーサル中、I'm Inという曲でセンターを務める予定だった江藤茉奈が行方不明になった。江藤は3列目からの抜擢だった。プレッシャーに負けたらしい。
運営は早くから彼女を探すのをあきらめ、代理の代理のセンターを立てたけれど、私たちの動揺は収まらなかった。
それから一週間後に発売の週刊誌には、幼馴染のタクシー運転手と車内でキスをしている江藤茉奈の写真が掲載された。それは、私たちが罵声交じりのライブを行っていたのと同時間の事だったらしい。
グループにとって、恋愛は御法度。詳しく言えば誰かにわかるように恋愛することは御法度だった。当然、ライブを無断ですっぽかすことだって許されるわけがない。
おそらく近々、江藤の卒業が発表されるだろう。
運営はまだ、江藤茉奈とその後、会えていないらしい。
公演開始の夕刻6時30分。
しかし、時間が来ても、ライブは開演しなかった。
3列目メンバーの三木かすみが、更衣室のロッカーに閉じ込められたのだった。誰かが彼女を閉じ込め、鍵をかけたのだ。誰かと言っても、やったものは大体見当がついている。メンバーの中でも知っている者は知っている。
三木を助けるための鍵は見つからなかった。管理者に連絡を取って、スペアキーでようやく助け出した時は、もう開演時間から30分経っていた。
ロッカーの中からようやく助け出された三木かすみは、しかし、呆然自失でとても舞台に出られる状態ではなかった。結局、三木はライブを休んだ。
そして、そのまま体調不良による休養を発表したのだった。
公演開始時間からおよそ30分遅れで始まったライブ。
しかし、こんな状態で満足なライブができるはずがない。
私達16人は、必死になって歌い踊ったけれど、心ここにあらずだった。
歌はとちった。
踊りは間違えた。
みんな目がきょろきょろして、挙動不審で。
そんな異常事態がスタッフにも伝染した。
暗いしっとりした雰囲気の曲で、突然舞台が明転した。
音声が頻繁に途切れた。音響のバランスが滅茶苦茶だった。
怒り狂って裸になった観客が舞台に上り会場が騒然となった。
ドームを回るゴンドラがメンバーを乗せたまま途中で停まり、動かなくなった。楽曲は中途でフェイドアウトし、スタッフ総出でゴンドラの中のメンバーを助け出した。
そもそも遅れて始まったライブの演目は押しに押し、私たちは最後の曲までたどり着けず、尻切れトンボのように突然、客席が明転し、アンコールもなくすべてが終わったのだった。
「ああ!臼井!」
「なによ、なに?」
開いたままのノートパソコンを見て、川平が突然大きな声を上げた。
「だめだよ。エゴサーチしちゃ。禁止禁止。今見ちゃダメ」
「ははは」
「何?」
「それがね。私についてはまったく何も書かれてなかった」
「そうなの?」
「うん。川平はやっちゃだめだよ。エゴサーチ」
そんな私だった。
私は、何本も立っている避雷針の傘の下にいたのだ。
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