2022/9/18 「荷物検査」

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私は今人生最大の危機に陥っていた。それは予告なしに行われた荷物検査である。そんなもの引っかかる奴が悪いんだと思うだろう。私も以前まではそう思っていた。それに校内への持ち込みが禁止されているものなんて持ち込んだりする生徒じゃないから、自分は大丈夫だと高を括っていたのにまさか今日だなんて。あぁ、今すぐ鞄を抱えて教室から逃げ出したい。何故なら私のカバンの中には禁書レベルのBL漫画が隠されているのだ。 「皆いい?隠そうとしてもすぐにばれちゃうんだからやめておきなさい。鞄と中のものは机の上に広げて、手はパーにしていてくださいね。」 またかよ、うわー最悪とクラスの皆の嘆きが聞こえるが私はそれどころじゃない。お前らがスマホやゲーム機を没収されるのとはわけが違うんだ。こちとら禁書だぞ。なんで発売日だからって放課後まで待てなかったんだ私。それに今回の禁書はすぐに燃やさないといけないレベルに過激である。表紙がだめなら裏表紙を表にして出しておけばいいと思うだろう。しかしそうはいかない。この本の場合BLあるあるの裏表紙の方が過激で、くんずほぐれつしてしまっているのである。一体どうやってごまかせばいいのだろう。表紙を高速で裏返して隠すか。いや、でもひっくり返している間に見られるリスクが高すぎる。そうこう考えている間に鞄の中の荷物をすべて出し尽くしてしまった。残すは禁書だけである。 「皆さん全部出せましたか?じゃあもう机の上は触っちゃいけませんよ。ふふふっ。」 そうこうしているうちに私は身動きが取れなくなってしまった。澄子先生の意地悪そうな笑い声が恨めしい。先生は大体いつもは優しいが30過ぎても独身で毎日に刺激がないのか、荷物検査の日には違反物を見つけると水を得た魚のように喜びながら我々生徒の不幸を嘲り笑うのだ。こんな禁書見つけられてしまったら、きっと先生は笑いながら私をさらし者にするだろう。さようなら今日の食堂の日替わりカレー。私はもう君を食べることは出来ないだろう。でも悲しまないで。私は永遠にあなたを忘れないから。頭の中でカレーとランデブーして現実逃避をしていたら、ついに私の番が来てしまった。先生の眼鏡の奥に隠された目が意地悪そうに笑っている。私の席に来るまでに集めた物たちで違反物用の袋がパンパンになっている。今日は大量じゃないですか。よかったですね先生。その中に私の愛しの禁書も入れられてしまうのね。お願い、帯は破かないで。奇麗なままにして。あれ、ちょっと待って。BLといっても一応R18だからこれって犯罪?もしかして私捕まる!? 「次は高田さんの番ですね。机の上は以上なし、鞄の中は、はっ、」 先生が息をのむ声が聞こえる。私の平和な学校生活もこれで幕を閉じるのね。まさかこんな形で手持ちの生徒に犯罪者が出てしまうなんてごめんなさい、先生。私は申し訳ない気持ちから先生の目を見ることが出来なかった。 「い、以上ありませんね。大丈夫です。それでは没収された生徒はあとで職員室に来てくださいね。」 そういうと先生はつまずきながら教室を後にした。もしかして見逃してくれたのだろうか。いやあの反応は確実にばれていた。それなのにわざと見逃してくれたのだ。ということは、もしかして先生も。気づいたら走り出している自分がいた。そしてすがるように先生の手をつかむ。 「あの、先生どうして?」 すると先生はとてもやさしい顔でこちらを振り返った。 「同志を晒上げるなんて私にはできないわ。高田さんあなたいい目してるじゃない。あれP太郎先生の新刊でしょ?でも私みたいに30過ぎてもこじらしちゃだめよ。趣味は適度に楽しまないとね。」 そう言うと先生はヒールを鳴らしながら颯爽と去っていった。
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