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『ただいま』
「暖おかえり!あっ、ちょうどご飯準備出来たから食べよ」
キッチンから顔を覗かせた母親が靴を脱ぐ僕に言ったが、少食の僕はカフェのスイーツだけでお腹は満たされていた。
『あー…食べたからいらないよ、ありがとう』
「何もうせっかく用意したのに、それなら先にいいなさいよ〜」
『ごめん、、』
トントンと二階に上がる階段の途中でボソッと体格のいい学ラン姿の背中から聞こえた声に足を止めた。目にかかる長い前髪を分けて声のする方に遠慮がちに見る。
「いいじゃん。俺兄貴と一緒に食べたくないからずっと別でいいし」
「こら、陽そうゆう事言わないの!」
"思春期特有の反抗期でしょ"で片付けられたらいいけれど残念ながら、弟の陽とは小学高学年から間違っても仲の良い兄弟とは言えなかった。
それはきっと僕のなよなよした女々しい陰キャがバリバリのサッカー少年にはさぞ鬱陶しく思える存在で、さらに浪人生の肩書きがますます嫌われる要素に拍車かけているんだろう。
確かに僕は害はないが誰かに影響与える人間でもない。
部屋に入ると早速、教科書の間に挟まったレビューノートをカバンから探す。学校の課題そっちのけで帰宅するといつも投稿タイムの始まり。
『えっと、ノート…ノート』
"駅から少し歩くが分かりやすい一本道。平日ならさほど並ぶことなく入店できる"
"注文したメニューはこの時期限定の……"
入力するスピードも書く台詞も投稿する度に慣れていきもはやベテラングルメレポーターの気分。フォロワー300人達成を目前に気持ちも高ぶって文字数も自然に増えていく。明希に怒られながら撮った写真もつけてバッチリOK!
『はいっ投稿完了』
投稿して終わりではない。むしろその後の反応が肝心でしばらくスマホから目を離せない。スマホの中の写真フォルダは大量の食べ物の写真でパンパンでスクロールしながら机に突っ伏した。
『あー…バイトしなきゃな』
正直お店巡るにも資金が必要でそれなりにお洒落なメニューに焦点を当てると更に財布の中は寂しくなっていく。
もちろん参考書などのお金もかかる浪人生。親に授業料を出して貰っているのも申し訳なさがある、難なく合格していれば必要のないお金だったわけで。
そんな事考えながらポチポチと手が勝手に"カフェ 期間限定 スイーツ"とお決まりのワードを打ち込んでいた。
『あっ、この店いいかも♡』
そしてピコンっと通知が表示されるとその瞬間は訪れた。"あなたをフォローしました"
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