白球とバット

1/1
前へ
/25ページ
次へ

白球とバット

バッターボックスに入る緊張感が好きだ。 8人いる仲間も、ここには助けに来れない。前にも後ろにも敵しかいない。 自分ひとりだけで、立ち向かわなければいけない。そんな場所。 ヒリヒリと感じる緊張感に鼓動を速めながら、長谷川稔(はせがわみのる)はベンチからの仲間の声援を受けバットを握った。 マウンドのピッチャーが首を横に振り、キャッチーからの球種のサインを拒否する。 稔は、ふーっと息を吐き集中力を高める。 ピッチャーがこくりと頷いた。…来る。 その場にいた全員が、一瞬の静寂を共有した 次の瞬間 キィーーンッ 青い空を白球が切り裂いていく。 みんなが空を見上げた。 「大きいぞー!!」 「回れ回れー!!」 稔は全速力で駆け抜けて、ファーストベースを蹴った。 まだ守備はボールには追いついていない。 そのままセカンドベースへと向かう。 まだイケる! 稔はセカンドベースを蹴る。 もう稔からはボールは見えない。 次はどうだ!? サードベース止まりか? 仲間に目をやると 「回れ回れー!!」 と腕を回して稔にサインを送っている。 稔は仲間を信じてサードベースを駆け抜けた。 ホームベースまで後5m! 間に合うか!? キャッチャーがボールを受け取る為に立ち上がる。 稔はキャッチャーを避けるようにホームベースへと滑り込んだ。 わぁー!!! 仲間が駆け寄り、稔の頭を力任せにバシバシ叩き、肩を組んだ。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加