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ダーリーンの顔が絶望に染まった。
死刑囚でも基本的には死後の審判を受けられるように弔われる。
しかし死体が晒され安寧が得られないのであれば審判もなしに地獄行きだ。
教義にはそう書いてあり、一般的な信徒であるダーリーンにとってはなにより恐ろしいことであった。
フランシスは嬉しそうににっこりと笑う。
「ご安心ください。この責め苦はあなただけです。本当は他の方も同じようにしたかったのですが、それでは彼女を非難する人も出かねない。まあ『向こう』で仲良くしていてください」
例えば、もしヘクターがイヴェットに無体を働いていたとしたら個人的に鬱憤を晴らしていたかもしれない。
健気なイヴェットを傷つけたことは許しがたい。
しかしイヴェットの側にいるのに、自分が汚れるのは気が引けた。
フランシスの目にはダーリーン達は既に汚物に等しく映っていた。
つまりフランシスのわがままなのだ。
「さあ出してあげましょうか。今はあなたを守っているその檻から。エスコートは得意なんですよこれでも」
「やめ、やめてちょうだい」
出せと揺らしていた檻に、今度は縋るようにしがみついてダーリーンは首を振った。
その様子をフランシスは興味なさそうに見つめる。
右手を挙げると体格のいい男がフランシスの指示を受けて牢の鍵をあけた。
「いや! いやああ!!!」
地獄への扉が開くその音にダーリーンは部屋の隅へ逃げようとする。
しかし男たちはそれを許さず足を掴んで引きずりもどした。
そのまま何年も積み重なった汚物と腐臭で汚れたダーリーンを牢の外へ連れ出す。
「暴れるようなら骨の何本か……ああ、イヴェット嬢の痛みを知る為にも腕でも先に折ってください」
イヴェットの受けた痛みと恐怖はこんなものではない。
フランシスは無感動にダーリーンの悲鳴を聞く。
これからダーリーンには報いを受けてもらう。しかしそれはイヴェットは知らなくても良い。
フランシスは薄く笑う。
「拷問もタダじゃないんですよ。何の情報も持っていないあなたを苦しめるためだけに私が頼んだんですから、感謝してくださいね。それでは良い旅を」
興味を無くしたようにフランシスは背を向けて牢を去る。
「いやあああああああ!!!!!!」
あとにはダーリーンの悲鳴だけが残り、いつしか悲鳴さえも聞こえなくなっていた。
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