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「そうなのですか?」
「今日この大事な日に彼女らは代言人を連れてきませんでした。牢でもあなたからの金銭援助があり代言人を雇った記録があったはずです」
代言人についてはイヴェットも気になっていた。
裁判を軽く見ていて出牢後の資金としてため込んだのか、もしくは牢で快適に過ごす為に使ったのかと思っていた。
「……雇ったのは代言人ではなく、殺し屋だったということですか?」
「今の段階ではそう考えるのが自然です」
戻り次第、記録を当たり精査するというフランシスにイヴェットは恐縮する。
「私のせいでお仕事を増やしてしまいましたわね」
「いいえ。治安維持の一環ですのでお気になさらず。あの男たちは囮にも騙されずあなたを狙ったやり手です。」
イヴェットの気持ちを軽くするための優しい言葉だ。もちろんそれもあるのだろう。
しかし仕事だからと言われて少し寂しくもなった。
(おかしいわね。私ったら、なにを期待していたのかしら)
フランシスはずっと仕事で付き合ってくれているのだ。
立派な騎士に私情はないはず。
(王子の噂に感化されちゃったのかしら。助かったからって気が緩みすぎね)
「確かにそうですね。騎士団の方が暇になるくらい平和になるよう祈っております」
口元に手を持っていこうとして気づいた。
未だイヴェットの手は、フランシスに包まれたままだった。
あまりに心地よい温かさで落ち着いてしまい、離すタイミングを見失っていた。
(どうしようかしら。でも動かそうとしたのはフランシス様も気づいている、はず)
ちらりとフランシスに視線を向けると爽やかな笑顔が返って来た。
イヴェットを安心させるためなのか、気づいていないのか、その眩しい笑顔だけでは推し量れない。
もちろんフランシスは手を離そうとしたイヴェットに気づいていた。
だが離宮に着くまでの短い時間、気づかないふりをすることにしたのだ。
(困らせたくはないのだが)
少しでも落ち着けばと思って伸ばした手だが、今は非常に離れがたく感じる。
細いながらもペンだこのある手は、彼女の心労と普段の仕事ぶりが垣間見える気がした。
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