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ある日のオーダム邸。
イヴェットとフランシスは応接間で向かい合ってお茶を楽しんでいた。
「暗殺者を雇った証拠はすぐに見つかりました」
代言人を雇うにあたり引き合わされたダーリーンたちがひどく言い争っていた事も判明した。
カペル夫人とパウラは既に心神喪失状態に近かったらしい。
ヘクターがまっとうに代言人を雇おうとしたもののダーリーンの強行を止められなかったと証言が出た。
監視員もその時は代言人のこだわりがあるのか、程度にしか思っておらず録取を見ても巧妙にやり取りしていたようだ。
「その殺し屋がヒンズリーと繋がっていました。というよりヒンズリーの殺し屋を使ったようです」
ジェニファーの居住地に訪れたヒンズリーの尾行に成功し、今回のことで明確に証拠を押さえられたらしい。
既に投獄され、国家反逆罪として死刑は免れないようだ。
ジェニファーもヘクターとの不貞行為を咎められたらしい。
それ相応の罰が下されるようだ。
「彼女は自分は娼婦だと申告し、相手の事は知らなかったと実刑は免れたようです。ですがこの先職業は選べなくなりました」
一生を娼婦として生きていくしかないということだ。神殿に娼婦だと言ったのだから嘘をつくことは許されない。
何も悪いことをしていなくてもそうやって生きている女性はいる。
だから人によってはうまく罰を免れたように見えるだろう。
しかしジェニファーは父親のお金でずっと自由気ままに生きていたらしい。
彼女にとっては働くこと自体が罰になるのだ。
「では本当に安全になったのですね」
イヴェットはほっと胸をなでおろす。
穏やかな離宮で過ごしていたからからだろうか。
それとも今こうしてオーダム邸に帰ってきてゆったりとした時間を満喫していたからだろうか。
あの恐怖の日々を忘れることなどできないものの、その記憶は確実に影をひそめていた。
「はい。これからもあなたを脅かす全てから、守りたいと思います」
非常に爽やかな笑顔のフランシスに、イヴェットは一瞬何を言ったのか理解できなかった。
「これからも、ですか? 脅威は去ったのに」
「そうはいっても今後何があるか分かりません。……それとも私では力不足でしょうか?」
「い、いえ。そういうわけではないのですけれど」
正直に言えば嬉しかった。
今が安全とはいえ、フランシスがいる時は何も心配しなくてもいいくらいには頼りにしていた。
だから今後もと言われれば喜ばしいのだが。
(彼のような素敵な男性を独り占めすることになるのは申し訳ないわ)
女性が苦手とは言っていたがもうそろそろ結婚の話もあるだろう。
それなのに仕事上の付き合いの女性の警護をしていては明らかに邪魔者だ。
イヴェットはそれを素直に告げることにした。
「……ああ。それについては解決方法が一つだけあるんですよ」
「そうなのですか?」
頬を赤らめて穏やかに笑うフランシスに、イヴェットは不思議そうな顔をした。
「ところで次の結婚のご予定はありますか?」
「はい?」
イヴェットの目が見開かれる。
お互いの顔が真っ赤になるのを、太陽だけが照らしていた。
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