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目を閉じてもう風の音に耳を澄ますのみにする。
見ないようにしてやるから、今のうちにそろそろと逃げればいい。
少し離れたら、走り去ってもうすれ違おうとも無視していればいい。
逃げればいいと思うのに、目を閉じたことでやたら聴覚は敏感になる。
だからこそ、一切音がしないことが不思議で目を開けると、そこには正座をしてリュックを抱き締めたままの男が居た。
「は?」
思わず声が漏れたが男はペコリと頭を下げる。
「何してんの?お前……」
理解できなくてそのまま口を開くと、男はまたビクビクと小さくなった。
ここまでビビるならなぜ逃げない?
「あの……えっと……その……」
決してこっちは見ないまま男はこれでもかとリュックを握る。
「それ……」
「はぃぃぃっ!?」
吹っ飛んだ声を聞いて、ビビりすぎ、と思いながら少し腰を浮かせてそのリュックの持ち手を摘んだ。
「潰れるぞ」
少し引いてやると、男は手を離して大袈裟すぎるくらいアワアワとしてまたギュッと縮こまる。
「……お前さ、俺のこと怖いんだろ?ならさっさと行けばいいだろ?」
「えっと……その……」
「はぁ?落ちてケガでもしてんのか?ったく、面倒くせぇなぁ……」
「いえ、いえ、いえ、いえっ!!」
捻挫でもしたのかと立ち上がると、男は尻餅をついて首が引きちぎれそうなほど横に振って両手も必死に振った。
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