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「はぁ〜?」
スラックスの両ポケットに手を突っ込んで見下ろすと、また男はリュックを手繰り寄せて必死に握り締める。
「あの……あ……」
「あ?」
「ありがとうございましたっ!!」
リュックは抱えたまま正座をしてから地面に頭を付ける姿を俺はどう見たらいいのか。
そもそもこの男にお礼を言われる覚えもない。
上から落ちてきたことを謝られるならともかく。
「はぁ〜?」
意味がわからず眉を寄せると、男はピシッと姿勢を正してこっちを見上げた。
「追ってきた田中くんたちを追い払って頂きまして……」
「待て」
「はい?」
言われても身に覚えがなくてため息を吐きながらしゃがみ込む。
「俺が?」
「はい」
「追い払った?」
「はい」
頷かれてもそんな記憶は一切ない。
「この木の上に何とか逃げたのにしつこく石を投げられて……」
「あぁ……」
石を投げていた金髪野郎とその取り巻きどもを思い出す。
静かなここでおにぎり食いながら本を……と思ったのに邪魔で睨んだら逃げて行っただけだ。
追い払ったつもりも、助けたつもりもない。
「あれは助けたとかじゃなくて……」
「それでも僕は助かったんです」
ホッとしたような顔を見て笑ってしまった。
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