転生しますか? それともリセット?

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***  ていうか、里に降りてみれば、イケメンとかいう生き物は意外に多い。もっとも私は、めったに山(アパート)から出ないけど。  いや、だからか。いつの間に世間はオシャレな若者たちで溢れていたのだ? それとも山ごもりしているうちに、私が年齢(トシ)をとったと、そういうことか?  ルトゥー・ドゥ・ボヌールは、山手線の内側、いわゆる"里(私にとって)"にあるけど、高層ビル群の間を歩いていると、自分がありんこになったように感じて、道ゆく華やかな人々を眺める余裕は、ありんこにはない。  天音さんにうっかりときめいてしまったのは、だから、イケメンという未確認生物が不意に私の近くに現れ、言葉を交わしてしまったからだ。もしかして、これから私が進む道に、大量の花がばらまかれたのではないだろうかと、脳がおめでたい回路を辿って暴走したのだ。 「ちゅう子ちゃん、こんなのどう?」  愛らしい伽羅の声に、私は未確認生物の世界から一気に現実へと引き戻された。見ると、パステルカラーのヒラヒラした洋服が至るところに飾られた店内で、伽羅が、パステルカラーのヒラヒラした洋服を自分にあてがってニコニコしている。 「あ、うん、キレイ」  そう、ここは住み慣れた山ではない。伽羅に誘われて、ヒトに化けて里に降りてきたのだ。  伽羅はいつも、なにかと私を誘ってくれる。私を気遣ってくれてるんだろう。有り難いけど、私は人混みはクッソ苦手なので、5回に4回はお断りさせていただいている。  一緒に歩いてると、それだけで自己嫌悪に陥るし。  伽羅に声をかけたそうな男ども。見てみ、すっげぇ可愛くね? あーマジ可愛いじゃん! ちょ、おま声かけてみ? えー?おまえかけてみろよ!  いや、でも一緒にいるコ、ダサくね? あはは、あれヤベェな! あの可愛いコに声かけたら、もれなく残念なほうもついてくるっしょ。ないわー、それないわー。ギャハハハハ!  ……「いや、でも」以下は私の妄想なんだけどね。あながち間違ってはないと思うの。 「ちゅう子ちゃん!」  いかん、また違う世界に行っていた。 「もーっ。今日はちゅう子ちゃんの服を選びに来たんだからねっ!」 「あっ、う、うん、そうだよね、ごめん」 「別に謝んなくてもいいけどさー。あ、これなんかどう?」  ぱっと顔を輝かせて伽羅が手にしたのは、淡いピンクのヒラヒラワンピだ。
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