清く、正しく、逞しく

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 とりあえず無難なところでクロワッサン(サクサク)と、胡桃パン(ふわふわ)と、フレンチトーストベーグル(もちもち)を選んだ。選んでやったんだから文句は言わせない。ていうか、いちゃもんつけてきたら警察呼ぶ。 「ま、こんなもんでええか」  ……いちゃもんというには微妙な線だ。 「姉ちゃん、ありがとな!」  その風体にはまったく似つかわしくないオシャレな紙袋を片手に、ニカッと笑って去っていった。笑うと、悔しいが私より年下に見えた。 「久々、濃いお客さんだったね~」  ホウキを手に、店の出入り口をしげしげと眺めながら伽羅が戻ってきた。その直後に「カフェまだやってますか?」と入ってきたカタギのお客さんを、伽羅が「すみませーん、カフェは7時までなんですぅ」と、申し訳なさそうな極上の笑顔で追い返す。 「伽羅ちゃん、7時まで、まだあと5分あるよ?」 「えー、だってサイフォンのフィルターとフラスコ、洗っちゃったもん」  (はえ)えよ。 「あー、早く8時にならないかなあ!」  それは私も同じ気持ち。早く家に帰りたい。まあ、帰ったところで、誰も待っちゃいないんですけどねアハハハハッ。 「ちゅう子ちゃん、明日は?」 「え、あ、明日は遅番」 「ホント? じゃあまた一緒だ、よろしくね!」 「あ、うん、よろしく」  ……こういう、何気ない会話でも、私はスムーズに話すことができない。心はおしゃべりなんですけどね。なんていうか、言葉として声に乗せるまでに、いろいろ考えてしまうのだ。こんなことを言ったらどう思われるかな、とか。  考えすぎなんだろう。でも気付いたら、こういう自分になっていた。おかしい。幼稚園時代は「元気すぎるちゅう子ちゃん」だったのに。  ああ、だからだ。顔面偏差値を抜きにしても、コミュニケーションが壊滅的に苦手だから、ぼっちなんだ。別にいいけどね。誰かに気を遣うとかないからラクだし。バイトのときだけ我慢すれば、それでいい。  それで、いいのだ。 ***
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