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私の汚い泣き笑いの顔を見て、天音さんは申し訳なさそうに眉を下げた。それから、なにかを決意したかのように、眉間にぐっと力を入れて、まっすぐに私を見た。
「ちゅう子ちゃん」
「はっ……はいっ」
垂れてきた鼻水を慌ててズビッと啜り上げる。
「ちゅう子ちゃんは、いつも一生懸命で、真面目で」
ああ──
内心、がっかりした。
一生懸命で真面目。小さい頃からまわりのおとなたちに言われ続けた言葉。一生懸命で真面目なことが悪いわけじゃない。けど、私にはそれしか取り柄がないみたいで、そう評価されることが私は嫌だった。
……いや、実際そうなんだろう。私にはなんの取り柄もない。
「そして、頭の回転が早くて、可愛い」
ん?
いま、なんつった?
「ちゅう子ちゃんは、すごく可愛いおとなの女性」
「……ふぇ?」
浮腫んできたまぶたを気合いで引き上げてきょとんとする私に、天音さんはにっこりと微笑みかけた。
「もっと自分を好きになれるといいね」
いや、あの……え?
「"自分を好きになって"って言われると困るかもしれないけど、ちゅう子ちゃんのまわりにいる人たちをよく思い出してみて」
私の、まわりにいる人……伽羅、店長、澪ちゃん……そして天音さん。
「みんなちゅう子ちゃんが好きだからそばにいるんだよ」
店長は、いつもなにかと気遣ってくれる。本当のお母さんみたいに。
伽羅も。引きこもりがちな私を連れ出してくれる。いろんな話をしてくれる。話を聞いてくれる。
……私は、これまで自分のことばかりで、なんにも気付いてなかった。すごくすごく近いところに、私はこんなにも素敵な宝物を持っていたんだ。
止まっていた涙が、また溢れてきた。
帰路、日没を迎えてキレイにライトアップされたベイブリッジも、涙で滲んでぼやけていた。
***
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