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勉強っていうのは退屈なものだ。
ゾーンに入る人もいるのかもしれないけど、私はまだその域に到達したことはない。多分これからもないだろう。凡人である私は、ちょっとしたご褒美で自分を鼓舞しないと勉強へのモチベーションを保てないのだ。
最近お気に入りなのは四角い形のビスケット。1箱に8袋入っている。これを、ある単元の勉強が終わった事にご褒美として食べるのだ。ほら、やっぱり頭を使うと甘いものが欲しくなるし、これは多分きっと脳科学的に正しい行為だと思う。このやり方を編み出してからは割と勉強が進むようになったし、こころなしかテストにも前向きに取り組めて成績も上昇の兆しを見せている。きっとこの先背が伸びて老若男女にモテモテで困っちゃう未来が待っているに違いない。
10月の夜にしては少し蒸し暑い。窓を細く開けて外気を取り入れつつ、スマホで流すのは『集中力1000倍アップ 脳の活性化を促し宇宙とつながる環境音楽』なる怪しい動画だ。この動画のおかげで大学合格しました、とか資格試験に合格しました、というコメントを読んで自己暗示をかけている。多分私は宇宙と繋がり何かものすごいパワーを取り込んで集中力がバカ上がって吸引力が変わらない掃除機並みにあらゆる知識を取り込むことになる。待っていろ世界。まもなく私が行く……。
何度かの休憩をはさみつつ、ようやく7つ目の課題が終りを迎えた。
「疲れた〜……」
体を伸ばすとあちこちからバキバキと音がした。さあ、ご褒美の時間だ。
ビスケットの箱を傾けて袋を取り出す。さあ、残る袋はあと1つ……。
「あれ?」
どういうことだ。今日はまだ7つ目のはず。
現代文、古文、数学、数学その2、日本史1、日本史2、日本史3。やっぱり7つ。なのに、ビスケットは最後の1袋。
箱を開けたのは今日だった。だから、前日すでに1袋食べてたなんてありえない。
誰が、食べた?
家族は不在だ。だから家で大きめの独り言をつぶやきながら勉強をしていたのだ。
「でもまあ、容疑者が減って良かったじゃない」
強がって言ってみたものの全然良くない。
家には私しかいない。箱は今日開けたばかり。私が席を外したのは数回。部屋の窓に鍵はかかっていなかった。ここから導き出される結論は一つ。
誰かが、この部屋にいる。
とっさに脳裏に浮かんだのは、家族ではなく親友だった。きっとアオイなら、どうにかしてくれる。
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