プロローグ

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プロローグ

 窓の外がにわかに暗くなり、かすかにゴロゴロという遠雷が聞こえる。  今にも大きな雨粒を落としそうな梅雨の曇天は、わたしの気持ちそのものだ。  昼食を食べ終えるまでは笑って会話していたわたしたちだったのに、それが一変してしまった。  大事な話があると告げると、リクも何かを察したように神妙な顔つきでダイニングテーブルの椅子に腰かけた。  何か月も悩み続けてようやく決心したはずなのに、この期に及んでわたしはまだ言いあぐねている。  どう言おうか迷いながら顔を横に向けて窓の外を眺めていると、リクが先に口を開いた。 「俺たち別れようか」  ああ、先回りされてしまった。  でもリクも同じ気持ちだったことにどこかホッとした。  無言で頷いてテーブルの向こう側に座るリクへ記入済みの離婚届を広げて差し出す。  リクはそのことにも驚いてはいなかった。  わたしの気持ちも、離婚届をすでに用意していたことも前から知っていたかのように何のためらいもなく手を伸ばして自分の方へ引き寄せる。 「記入したら俺が役所に出しておくから」  とても落ち着いた声だった。 「ごめん。他に好きな人ができたんだ」  リクの顔を見ることができず、うつむいたまま無言で頷いた。  ベランダのアルミ柵の手すりがパチパチと音を立て始める。  雨が降り始めたようだ。  空っぽになってしまったわたしの心に、雨粒の跳ね返る音だけが響いていた。    こうしてわたしとリクは、三年間の夫婦生活に終止符を打ったのだった。  
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