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第三相談室
「夏目相談事務所で〜〜〜〜〜す!」
夏目は、大声で叫んだ。
なのに、今日は誰一人とチラシをもらおうとはしてくれない。
その理由は、今日が雨だからだ。
ぽつぽつと降っている…ではなくかなり大雨。
コレは流石に無理か…と夏目が諦めかけたとき、有名なスポーツメーカーの傘をさした男の子が夏目の方へ近づいてきた。
夏目はチラシを差し出す。
「どうぞ〜〜。困ったことがあったら相談しに来てね〜。」
男の子はチラシを受け取ろうとはせず、その代わり夏目の目を見た。
「相談しに来ました!」
夏目は、へ?とかなり間抜けな声を出すと、チラシをバッグにしまった。
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「お名前は?」
男の子は椅子に座る。もちろんクッション性のやつだ。
「大崎大智です!」
夏目はニコリと笑った。
「じゃあ大智くん、悩みって何かな?」
大智は目を伏せると、手をきつく握った。
「俊子から聞いたんだけど、悩み解決してくれるんだよね!?」
俊子…とは夏目が貼っている絆創膏の持ち主だ。
夏目は小さくうなずく。だが夏目には俊子…木野の悩みを解決したということは記憶になかった。大智はなにか勘違いをしている。
「じゃあ、聞いてよ。僕テストの点数が取れないの!」
あとから大家さんに聞いたのだが木野は小学二年生らしい。つまりこの子も小学二年生ということか?だが小学二年生の勉強がそんなに難しいだろうか。
「えっと…大智くんは小学二年生なのかな?」
大智は首を横にふった。
「え?」
夏目はじゃあ何年生?と聞こうとしたが川端の言葉を思い出す。
【カウンセラーがしないといけないことは話を聞くことだ。ふしつような質問は禁止だ。】
そのまま夏目はじっくりと大智の話を聞くことにした。
「僕は小学四年生だよ。俊子は僕の幼馴染。」
それで納得がいった。クラスメートではなかったのか。
「僕、勉強はできてるんだけど点数だけは取れないの!」
夏目は口を開く。
「そっか…。それは大変だね。」
夏目の口調が少し棒読みになったのか、大智は不思議そうな顔をした。夏目はそれに気づかず続ける。
「でも、勉強ができることの基準はね、最終的にわかっているかどうかなの。テストはそれを確かめるものでテストの点数が悪いんだったら勉強ができてるって言えないんじゃないかな…?」
夏目の言葉が言い終えないうちに大智は、「じゃあもういいです!」といって椅子から降りた。
そしてゆっくりとドアを開けた。夏目が追いかけれなかったのは大智の目に涙が溜まっていることに気づいたからだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「って言うことがあったんです!」
「需要がない。帰ってくれ。」
夏目が大声で騒ぎ立てているのはもちろん川端のところだ。
「ほらぁ〜先生は帰ってくれって言ってますから帰ってくださいよ!」
芥川は嬉しそうだ。
夏目は今回は芥川に押されないことを確認すると、一口にまくし立てた。
「私が言ったことの何がだめだったのか教えて下さい!」
川端は気にもとめていない。
「芥川!」
芥川は川端に名前を呼ばれたことが嬉しいのがにんまりとわらう。そして夏目を押し始めた。夏目をそれを全力で耐える。
「…教えてください……!!!せんせー!」
夏目のその言葉を聞いて川端の耳がピクリと動く。
そして川端はペンを持ったままその場で言った。
「僕は君のカウンセラーの先生じゃない。よってぼくが君にアドバイスできることはなにもない。」
夏目は先生〜〜!と叫ぶ。
「ただこれだけは言っておく。どこに相談してきた内容を理屈でこね回す馬鹿なカウンセラーがいるんだ。」
夏目は叫ぶのをやめた。そして川端の話に耳を傾ける。
「相談してきた内容は自分ではわかっているけど認めたくないということがほとんどだ。その子もそのケースだろう。それをわかってあげるのがカウンセラーなんだ。」
芥川は夏目を押すのをやめ、川端の方を見た。
「だからその内容を理屈でこね回すカウンセラーはカウンセラーじゃない!」
川端は一度だけ夏目の方を見ると執筆に戻った。
芥川は川端から目を離すと、夏目を押すのを再開する。
「…帰ってくださいよ。」
芥川はかなり苛ついているのか。ドスの利いた声だ。
夏目は、芥川に押されるがままドアの前まで行く。
夏目の頭の中になにか引っかかっているような…。
そしてドアの前まで来たときに何かが外れた音がした。
「そうか!!!!!」
「何ッ!?」
夏目が叫ぶと、芥川は体をピクッと震わせる。
夏目はそのまま芥川に押されるまでもなく、ドアを開けた。
「ありがとうございます先生。いいアドバイスです!」
川端は夏目の方を見ると目を見開いて言いかけた。
「決して僕はアドバイスをしたわけじゃ…。」
だが川端の言ったことが全部夏目の耳に届く前にドアはバタンと閉まる。
川端は驚いたようにそのままドアの方を見ていた。
「先生、執筆再開してください。」
芥川の声が聞こえると我に返ったように川端はペンを持った。
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川端のところへ行ってから3日後
夏目はマッキーを持つときれいな字で紙にこう書いた。
『テストの点数が取れない子へ。
学習の基礎に帰ること。コレが大切です。
他にもできないところをずっと考え込んでいるだけでなく、他の問題に目を向けてできるところからやっていくことも大切です。
小学四年生から急に勉強が難しくなるらしいですが、皆んなそんなもんです。
別にテストの点数が全てじゃありません。
あなたなりに頑張ってください。
そしてこの間はごめんなさい』
夏目はよし、と呟くと紙を事務所のドアの前に貼り付けた。
あの子は見てくれるかな…と思いながら。
そして夏目は事務所に大量に積み重なった「テスト」や「勉強」のワードが入った本を片付けにかかった。
紙を張り出した後、事務所のポストにある一通の手紙が入っていた。
「そのドアにベルをつけるといいと思います。そうするとお客さんが来たときにもわかりやすいでしょ?
テストの点数、ちょっと良くなりました。ありがとうございます。
おかげで39点が取れました。」
差出人は書いてなかったが、夏目には差し出し主がわかった。
夏目は39点かよ、と苦笑するとベルを買いに音のならないドアを開けた。
続く
参考
https://chi-vi.jp/child-who-takes-perfect-score-in-test-20587.html
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