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相談室
「夏目ちゃん、お店頑張るんだよ」
「はい!ありがとうございます」
ダンボールを抱えながら、話しかけてくれたのはこの「お悩み相談事務所」の大家さんだ。
夏目ちゃんこと、夏目一葉は今年で24歳になる新人カウンセラー。
「夏目ちゃん、この大量の本はどこに置けばええかね?」
大家さんは見るからに重そうなダンボールを抱えている。
「あ、それはそこらへんにおいておいてほしいです。後で自分でやるので」
「そうかぇ」
大家さんはダンボールをよいこらしょ、とおろした。
「しっかし、若いのに偉いねぇー。人の役に立てる仕事につくなんて」
いえいえ、夏目は苦笑いで返した。その理由は他にある。
夏目が、口を開こうとしたとき大家さんは最後のダンボールを運んだ。
「これで最後だよ!じゃあこれが終わったらわたしゃぁ下に降りとるからね」
「あ、え、…はい!」
夏目は、大家さんの運んでいるダンボールをぼーっとみると、おいたばかりなはずなのにホコリまみれのソファーに座った。
ソファーの前には透けたテーブルが一つ。その上にはたくさんのチラシが乗っている。
『夏目相談事務所』
夏目はそのチラシを一枚つかむと、もう一度戻した。
「夏目ちゃん。これでダンボールを運び終わった。また困ったことがあったらいつでも呼んでな。」
夏目は生返事ではい、というと大家さんは満足したように下へ降りていった。
透けたテーブルにかすかに映る夏目の顔。それはまさに困っている人の顔だった。
「困っていることがあったらって…私はカウンセラーなのに」
夏目は薄く笑ってそして叫んだ。
「カウンセリングってどーやってやるのよーーーー!!!」
そう、夏目はカウンセリングをしたことのない本当に新人カウンセラーだったのだ。
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