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あの場所を求めて
俺は、帽子を深く被りマスクをして、あのカフェに向かった。
何年ぶりだろう。唯一心を許していたオーナーは元気にしているだろうか?期待に胸を膨らませながらカフェの扉を開けた。
カウンターには見覚えがある年老いたオーナーがいた。とても懐かしく、オーナーもすぐに俺だと理解してくれた。
久しぶりに祖父にあったような安らぐ時間だった。
俺が来て1時間程して、店のドアが開いた。2人ともドアに目をやると昔より大人っぽくなった紫がいた。
紫もすぐに俺だとわかったようで、久しぶりに話しがはずんだ。
「煌のテレビ見てるよ。本当にひさしぶり…。会わなくなってから…もう5年以上たつよね。元気だった?」
俺はいつもする取り繕った笑顔ではなく、自然に笑みが溢れる。紫の事はずっと気になっていた。
指輪が見つかってから、何となく紫をさけ、彼女もそれを感じたのか、あまりカフェにくる事が無くなっていた。そして会わなくなっていた。
ーー自分で会わなくなるようにしむけたのに、会えて嬉しいなんて俺も勝手すぎる……
「元気だった。紫も綺麗になったよ。今なにしてるの?ピアニストはどうなった?」
「反対されて頑張ってたけど、お金だすのは父だから結局断念した。今は父の会社で秘書しながら経営を勉強してる。でも、ピアノはやっぱり弾きたいし聞いてもらいたいから、たまにバイトで夜にバーでピアノ弾いてる。煌も今度きてよ」
こんなにたわいもない話しが自分にもできるんだと内心嬉しかった。
楽しい時間はあっという間だった。オーナーにまた来店することを約束し俺と紫は帰宅するために外にでた。近くの駅まで一緒に帰りながら、紫は話しだした。
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