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「……どう思う?」
昼休みの教室。俺は、友人の海星に尋ねた。去年は別々のクラスだったが、一昨年の三年生の時は同じクラスだった俺達である。というか、別のクラスだった去年もよくツルんで一緒にバスケットボールをやったりしていた。真面目だが正義感も強い、俺にとっては頼れる相棒である。
「どう思うってのは、松本君の靴のこと?」
「そ。俺、なんか引っかかってんだよな。昨今のいじめらしくないっつーかよ」
「……ああうん。僕もなんか変だなあって思ってた」
どうやら、俺と同じ違和感を海星も感じていたらしい。
「最近のいじめって、物を壊してどうのっていうのは減ってるんだよね。いじめっ子も体面を気にするっていうかさ、そういうのより水面下で攻撃することが増えてるというか。僕達が三年生の時のクラスでも、そういうのあったじゃん?LINEいじめとSNSいじめ」
「おう」
三年生の時、自分達のクラスはとある問題を抱えていた。女子の一人が、LINEグループで仲間外れにされたり、裏掲示板で悪口を言われていることが発覚したのである。表向き彼女達は同じグループで仲良くしているように見えたので発覚が遅れたのだ。――いじめの主犯の子は、中学受験をするように親に言われており、三年生の時点で既にハードな塾に通わされていた。ストレスが溜まっていたという。
その上で、親に叱られるのが怖いから表立って悪いことをすることもできない。それが、匿名でクラスメートをいじめるという、陰湿な方向に向かったのではないかとされている。
現在のいじめは、ものを壊したり殴ったりというわかりやすい方向に行かないことも多いのが恐ろしい。そもそも、主犯が誰なのかわかるまで時間がかかったりするから面倒なのである。特に、女子の場合はより狡猾な方向に行きがちだ。まさに現代の闇である。
もちろん、だからといって物を壊すいじめや、暴力的ないじめがまったくなくなったかというと、そういうわけではないのだろうが。
「気になる点その一。……このクラス、まだ始まって半月も経ってねーぞ。松本ってクラスでも目立つ方じゃないし、誰かとトラブってた様子もないし……苛められる標的になるには違和感があるんだよな。去年から確執があってーってならわからないでもないけど、あいつ元三組じゃん?元三組の生徒って、松本以外だと原田くらいしかいないだろ」
ちらり、と見つめる先には窓際にぼんやりと座る少女が。原田深優。いつもぼんやりと本を読んでるような、これまた非常に大人しい少女である。松本大貴と喋っているのも見たことがない。この二人でトラブルがあった、とか。去年から何か問題があって、ということも多分ないだろう。
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