カノンは試練を惜しまない

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 だが、これでは本末転倒。早々に先生にバレて大事になっている。靴を捨てた奴も、それがわからないほど馬鹿だったとは思えない。  つまり。あれは最初から、先生が発見することを前提として捨てた可能性が高いのではないか。 「気になる点その三。俺、前の方の席だしばっちり見えたんだけどさ。先生が見せつけてきた松本の靴、靴ひもがズタズタにされてて分かりづらかったんだけど……靴底と泥のシミは、結構古い感じだったんだよな」  俺は、自分が見た運動靴の姿を思い出しながら言う。 「俺、自由研究って名目で、自分のボロい靴を解体しようとして親にえらい叱られたことがあるから知ってるんだけど」 「何やってんのワルガキ」 「うっせー。ああいうのバラしたらどうなるかって気になるじゃん!……まあ、だからさ、現代の日本製の運動靴というものが、結構丈夫にできてることは知ってるわけです。……刃物も使わず、小学生の力で靴底を剥すとか100パー無理」  そうなのだ。あの運動靴は、紐こそ刃物で切られた形跡があったものの、靴底に刃物を入れた痕跡はなかった。不良品だったか、経年劣化でべりっと破れて剥がれた、みたいな印象だったのである。あの靴にしみついた泥も、わざわざ外で汚損したという印象ではなかった。  そもそも、相手に精神的ダメージを与えるなら、刃物で切り刻むだけで充分。  汚損するなら、トイレに落とした方が絶対ダメージが大きい。 ――しかも、先生が紙の上に置いた時。……全然、砂が落ちた様子なかたったしな。あの靴、新しい汚れはついてなかったってことだ。 「で、トドメの気になる点その四がさ。何で、松本のやつ都合よく予備の靴持ってきてんの?ってことだよ」  俺が四本指を立てて言えば、うんうん、と海星も頷いた。 「普通、運動口の予備なんか学校に持ってこないよね、かさばるし」 「おう。……とすりゃ、考えられる可能性は一つくらいしかねえ。“必要になる”とわかっていたからだ」  現時点では、状況証拠くらいしかない。でも、何かがおかしいと断じるにはこの四つの根拠で充分ではなかろうか。  俺は意を決して席から立ち上がると、自分の席でぼんやりとスマホを見ていた松本に声をかけた。 「おい、松本。ちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいか?」
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