カノンは試練を惜しまない

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 ***  ミステリーには、解くべき謎が三つあるという。  一つはフーダニット。一体誰が犯人なのか、という謎。  一つはハウダニット。一体どうやって、その犯行を行ったのかという謎。  そして、最後の一つがホワイダニット。何故その犯行を、その人物が行ったのかということだ。  フーダニットとハウダニットはもう、俺達の中で想像がついていた。残るはホワイダニットだけ。予測はできなくはないけれど、人の心を物的証拠で証明することは難しい。何より、自分達はまだ新しいクラスを始めたばかり。彼のことも、他の仲間達のことも殆ど何も知らない。  そして、彼にとっても、そうだったのだろう。だから。 「先生」  放課後。先生がもう一度みんなに呼びかけた時、一人の少年が手を挙げた。先生が驚いたように目を見開く中、彼は言う。 「その靴を、靴ひもを切り刻んで捨てたのは、ぼくです」  被害者だと思われた松本少年が、自ら名乗りを上げたのだから。  彼は、俺達にこう語った。 『去年、ぼくのクラスではは結構酷いいじめがあって。……でも、先生が全然助けてくれなかったんだ。ぼくは直接苛められた生徒じゃなかったけど、でもいじめっ子のことが怖くて何もできなかった。何もできない自分が嫌だった。……だから、せめて。ぼくに出来ることは何なのかって思ったんだ。クラスを、最初からそういう意識に変える方法がないかなって。失敗したらただの“オオカミが来た”になっちゃうけど……』  松本大貴は、試したのだ。先生が、いじめらしき問題が発生した時に見て見ぬふりをしてくれる人かどうか。  そして、その真相を解き明かし、仲間を助けようと頑張ってくれる人がクラスメートにいるかどうか。  あの運動靴は、元々ボロボロで捨てる予定だったのを彼が学校に持ってきyて靴ひもだけ切り刻み、わざと先生の教卓横のゴミ箱に捨てたものだったのである。自分の名前が、靴の中に書いてあることも承知の上で。 『ありがとう、海星君に力輝君。……ぼく、君達みたいな仲間と、同じクラスになれてうれしいよ。これからもよろしくね、名探偵』  彼のやり方が、正しいかどうかは誰にもわからない。騒ぎになったのは事実であるし、実際心配していた先生からはお叱りを受けていた。  しかし、同時に。改めていじめというものを考えようと、そう思った生徒もきっといたと思うのだ。勇気の出し方、世界の変え方の手段はきっと一つではない。松本少年もまた、彼なりのやり方で戦ってみようと思ったのだろう。 「名探偵かー。なんかかっこいいな!」 「そうだね。もちろん僕がホームズで、力輝がワトソンだよね?」 「なんでだよ!俺だってホームズがいいよ!」  俺達の日常は変わらない。俺はちょっとだけムカついて、手に持ったボールを海星の顔面に投げつけるのだった。
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