間抜け

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間抜け

後は計画通り。 今日この家の主は昼頃に家族で出掛けて行った。随分と大荷物で。今日は金曜日。きっとキャンプでもしに行ったのだろう。大きめのキャリーケースとレジャーシート。子供はきっとお気に入りなのであろうぬいぐるみまで持っていた。これがないと寝られないとかそういうことだろう。間違いなく泊まりでのお出かけだろう。その方が好都合だ。部屋を荒らした形跡を発見されるのが遅くなるし、いまだってゆっくり見物できるだろう。だが、万が一忘れ物でもして戻ってこられてしまっては困る。30分ぐらいは様子を見よう。  俺は1時間後、宅配業者に変装して玄関まで近づくことができた。忘れ物はなかったようだ。得意のピッキングで鍵を開ける。ふっ、2回目だと10秒もかからない。実は一度2週間前に中を視察済みだ。息を殺してドアノブを回す。  玄関に靴はない。念のため耳を澄ませたが物音もない。ただ、なんか生臭い。遠出するというのに生ゴミの処理をしていかなかったのか、全く。できない嫁さんだな。 家の作りが古いからか、台所とリビングや茶の間は一緒になっていない。台所に近づくと、匂いがキツくなってきた。くっせ。ここは後回しもしくは開けないでおこう。  茶の間についた。きしむ戸を開けるとタンスと押し入れ。さー、やりますか。  まずはタンスを開け、て。  え。  なにもない。空っぽだ。そんなはずはない。その下の段も、さらに下の段も。ない。なんでだ。下見の時には確かにここに物が詰まっていた。はずだ。 押し入れも開ける。ない。風呂場に行く。何もない。2階に駆け上がって寝室に行く。何もない。子供部屋に行く。ない、何もない。  2週間前にあったすべての部屋の家具やら写真やら家電やらが全部ない。まっさらな空間だけが目の前に広がった。  俺は急いで階段を降りて台所の前に立った。キツく生臭い匂いが立ち込める。すりガラスの引き戸からは赤っぽい色がぼやけて見える。額には汗。ガッと開けた。蝿が右耳を横切る。   俺はそこからの記憶がない。
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