欲の塊になるとき

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欲の塊になるとき

男だけの生理なのかはわからないが、誰でもいいからふれてほしいと欲の塊になるときがある。 向井(むかい)(りつ)はそれが人より激しい(たち)ではないかと、子供の頃から悩んでいた。 律が手で慰めることを知ったのは、他の男よりは早かったかもしれない。 小便をしたくないときにそこを丹念に擦れば、痺れのようなものが襲ってくるのだと、幼稚園に上がる頃に知った。 快感という言葉を知る前に、律は快感を覚えた。 時は過ぎて、体をかさねる方法を悪友の口から聴くと、まさしくこれだと合点がいった。 生まれてからずっと身のうちに沸き起こる焦燥は、誰の肌も知らないからだった。まだ詰襟を着たばかりの律は、そう考えた。 蝦夷梅雨(えぞつゆ)で一層(かび)臭くなった町立図書館で、『からだのしくみ』という分厚い図解入りの閉架資料を読み(ふけ)ったのはこの頃だった。 でも、だからといって。誰かと通じるにはどうしたらいいか、律にはわからなかった。 正体がわかっても、治療できぬとは。焦りは募るばかりだ。 二十三になって自慢できるのは、慰める手つきが昔より上手くなったことだけだった。早く達して、欲の塊になっていた自分を、日のもとに出られる理性ある自分に戻す。慰めることは、機械的な作業に陥っていた。 高校の学園祭、大学の飲み会と、体をかさねる機会はあったのに、騒ぐ連中を律はただぼんやりと眺めるだけだった。
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