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ライバルが多いな
橋田は手を引いて歩き出した。律は慌ててついていく。
「店を予約しました」
橋田に連れられてきたのは、しゃれたイタリアンレストランだった。
テーブル席に案内されると、橋田はワインリストを差し出してくる。
「どれにしますか?赤?白?」
「お任せします」
橋田がソムリエに注文を伝える。ソムリエが去っていくと、橋田は小さくため息をついた。
「どうかしましたか?」
「……実は、こういうところに来るのは久しぶりで……少し緊張しています」
「意外です」
「律先生は?」
「先輩作家や他社の編集者に誘われて来たことがあります」
橋田は笑った。
「あー……これは、律先生の『初めて』じゃなかったか」
橋田は急に真顔になった。
「思った通りだ。ライバルが多いな」
「誰も狙ってませんよ」
「律先生は、周りの男どもになんて言われているか知らないんですね」
「え」
「美人で、頭が良くて、気立てが良い。それに、エロい」
「そ、そんな……」
「事実ですよ」
はっきり言われて、顔が熱くなった。
「みんな、僕の本当の顔を知らないんですよ」
「本当の顔?」
律は頷いた。
「はい。本当はコーヒーが苦手で、ジュースと牛乳が大好き。おやつはどら焼きがあれば幸せ」
「そうなんですか? ……かわいいな」
「ね、エロくないでしょ?」
「そんなことないですよ。律先生に見つめられて、ボーッとしている奴は大勢います」
「それは……なんて答えたらいいかわからないときです。何も言えなくて、相手の顔を見ているだけで……」
「律先生の瞳に参ってしまうと、私の周りでは話題ですよ。犯したいって酔った勢いでのたまう奴もいます。そんな輩に狙われないように、注意してください」
「はい……」
「きみを抱いた私が忠告するのも変ですね」
「いえ……気をつけます」
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