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この年で、恋をするとは思わなかった
「ところで、律先生の好みってどんな感じの人ですか?」
「え、僕のですか?」
「はい」
「えっと……優しくて、誠実で……あったかい感じがする人、かな……」
律の言葉を聞いて、橋田はうれしそうに笑う。
「私のことだ。よかった」
料理が運ばれてきた。
橋田はコースを頼んでいたらしく、前菜から順番に出てきた。
橋田が話しかけてくるので、律は話に花を咲かせた。橋田は聞き上手なので、律の話をうまく引き出してくれる。
そして、あっという間にメインディッシュがやってきた。
律は目の前に置かれた皿を見つめた。白いソースがかかった肉の上には赤い花びらが飾られている。
「うわあ、すごく美味しいです!」
「それはよかった。律先生、デザートも頼みましょう」
「はい」
律はメニュー表を見た。
「チーズケーキがありますね」
「いいですね」
橋田はウエイターを呼ぶと、ふたつ注文する。ウエイターが去っていく。
橋田に優しいまなざしで見つめらた。
「律先生、ありがとうございます。いつも私の依頼を引き受けてくださって」
「仕事ですから」
「私は、何も知らないきみにいろいろアドバイスしてきました。その、性的なこととか……」
確かに橋田との打ち合わせは、かなり際どい話が多かった。
「……きみを手に入れたくて焦って、焦って、いやらしいことばかり口にしました……この年で、恋をするとは思わなかった……」
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