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抱かれて、わかったんです
橋田は自嘲めいた顔をしていた。
「橋田さん。僕は子供じゃないですよ」
「律先生」
「ひとりの作家です。編集者が何を求めているか知るのが、作家ですから。それに……」
律はうつむいた。
「僕は、橋田さんが好きだから……」
橋田は目を丸くしたが、やがて口元を緩めた。
「うれしいことを言ってくれますね。やっぱり、抱かれて情が湧きましたか」
律は首を振った。
「抱かれて、わかったんです。僕のずっと欲しかったものが。橋田さん。あなただったんです」
橋田の顔が赤くなっていく。声を上げて笑っている。
「うわぁ、これが恋愛作家の本気のアプローチか……はあ、参りました。律先生には敵わないな」
橋田はワイングラスを手に取った。
「律先生、乾杯しましょう」
「はい」
律もワインを口にした。甘みのある味が広がる。
「律先生……」
橋田は身を乗り出した。律に囁く。
「デザートは急いで食べてください」
橋田は律の手を取った。
「いますぐ、きみを抱きたい」
橋田が宿泊する部屋に入るなり、律は唇を塞がれた。
「んっ……ん……ん」
橋田は舌を絡めながら律を抱き寄せる。律も腕を回した。橋田のくちづけに舌で応えていく。
「ん…うまいですよ」
橋田は顔を離すと、律の頬を両手で包んだ。
「キスのときは、目は閉じるんですよ」
「はい……」
律は言われた通りにした。橋田が言う。
「いい子だ……」
「橋田……さん……」
橋田はベッドに腰掛けると、自分の膝に律を乗せた。ふたりはまた唇を重ねた。
橋田の唇はとても柔らかい。だが、時折強く押しつけてくる。まるで、自分のものだと主張しているかのように。
律は橋田の背中にしがみつくと、彼の首筋に鼻先を押しつけた。
(いい匂いがする)
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