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空想をめぐらす青年
奥手と人に言われたが、ただわからないだけだった。
冗談を言い合う仲のふたりが急にまじめくさった顔で服を脱ぎ、さて一戦……どんな流れだとうまくいくか律は知らない。
それでも、こんなものかしらと文章を書いたら、うけてしまった。
映画や本のラブシーンをかき集めて律の脳みそで煮込んだ、実体のない『恋愛』に人々は唸った。
「夢のような恋」と言った読者もいた。当たり前だ。
すべては律の夢なのだから。
何も知らないのに、こんなものだろうと、律はたくさんの恋愛小説を書いた。
純愛、不倫、SM。筆の加減を知らず、律は書いた。
律は知らなかった。
たったひとつの経験で、湧きあがる空想を塗りつぶせるということを。
律は知らなかった。
思うままに書いた小説が、ある男を欲の塊にさせていたことを。
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