チュートリアル①

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11  ご飯を食べに居間へ行くと、昨日は会えなかった、白さんたちの家族が揃って居間にいた。あの昼に食べるときに使った大きなテーブルをたくさんの美男美女が隙間なく囲み、それぞれ口々にお喋りをしていた。その光景は圧巻で、とにかく全員人外離れした美形だ。ゲームの世界に紛れ込んだような錯覚。ここが現実とは思えなくなるような空間。あまりの美しさに僕は息を飲んで、その場に立ち尽くしていた。 「アンタ何してんの?」  ボケっと突っ立っている僕に、桜が肘で僕の脇を小突く。そのお陰で僕はハッと我に返り、慌てて桜に返事をした。 「あぁ、ごめん! いや、みんなすごい美形だしたくさんいるなぁと思って…」  僕が正直にそう言うと、桜はケタケタと笑って「あー、そうねー」と相槌を打った。 「美形かはわかんないけど、十六人家族だもん! そりゃ多いわ。あ、でもアンタ入れてこれからは十七人家族か!」  バシバシと肩を叩いてくる桜だが、僕は桜の何気ない言葉に一瞬、胸が苦しくなった。それは、辛いからでは無い、あまりの優しさと嬉しさで胸がいっぱいになったからだ。  家族の中に、僕を入れてくれた。  それが、何より嬉しかった。受け入れてくれたのだと。昨日まで、あんなに辛い日々を送っていたのに、こんな幸福があっても良いのだろうか。僕は涙が出そうになるのを堪え、桜に質問した。 「僕、何処に座れば良いのかな…」  席は皆、指定席があるのかは知らないが全て埋まっており、空いてる席は殆ど無かった。白さんと茶髪の少年がご飯を運んでいて、桜を入れると席はちょうど三席しか空いてなかったのだ。 「んー、そうね、あんたはイオ兄と同じ誕生日席ね」  そう言って、桜はテーブルの端っこの席に座布団を敷き、ポンポンとそこを叩いて、僕に座るよう促した。僕は促されるままその席に着き、改めて周りを見渡した。  僕の正面にいる人が桜の言うイオ兄という人なのだろう。少し近寄り難い雰囲気だが、ご飯前なのにずっとお酒を飲んでいる。他にも色んな髪色をした人たちがワイワイと話をしている。僕のことは別段気にしていないようだった。でも、僕の席のすぐ傍にいる三つ編みの小さな女の子が僕のことをじっと見つめていた。僕は見つめられるのに、黙っているのがいたたまれなくなり、思い切って少女に話しかけてみる事にした。 「あ、えっと、ボクは昨日から白さんのご好意でここに居候させてもらうことになった、山上拓斗です。君は?」  少女に名を尋ねると、少女は嬉しそうに顔を綻ばせ、声を弾ませながら自己紹介してくれた。 「陽菜は陽菜だよ! よろしくね、タクトお兄ちゃん!」  そう言って満面の笑みを浮かべる陽菜ちゃんに、僕はつられて笑顔になった。  なんだ、この可愛い生き物は!  僕はそれだけで、なんだか生きてて良かったと言う気持ちになった。 「さぁ、ご飯できましたよ」  陽菜ちゃんと自己紹介していると、白さんがたくさんの料理を並べ終わったみたいで席に着きながらそう言った。さっきの茶髪の少年は陽菜ちゃんの隣の向かいの座っていて、どうも年齢順に席は並んでいのかもしれない。 「今日は、私が連れてきた山上拓斗さんを歓迎するために、私が張り切って豪華な料理を作ってみました!」  そう言われて初めてテーブルに並べられた料理に目を向けると、それはまるでパーティ会場に並べられた料理の如く、とても豪華なものだった。綺麗に並べられたローストビーフやローストチキン、ピザや色とりどりの野菜、グラタンやスープ、それにデザートのケーキまで。白さん、用事って言ってたけど、僕のためにこんなものまで用意してくれるなんて…!  僕は感動で目が潤み、ツンと込み上げてくる鼻を啜った。 「拓斗さん、改めてようこそ、針山家へ!」 「針山家?」 「あ、一応この家族の苗字です。適当につけたもので、本来苗字はないんですけど」  白さんはそう付け加え、パンパンと手を鳴らした。 「さぁ、みなさん、召し上がれ!」  白さんがそう言うと、みんな一斉に我先にと料理に手を付け始めた。僕はその光景に唖然とし、みるみるうちに無くなっていく食べ物を呆然と見つめた。  すると、近くの席にいた桜が僕へと警鐘を鳴らす。 「何ボサっとしてんの!? 夕食は戦場よ! こいつらみんな世間一般よりかなり食べるし、食べんの早いんだから!」 「えっ? えっ? そうなの!?」  オロオロとする僕に、今度は白さんが答える。 「そうですよー。 食べたいものがあったら、まず小皿に自分が食べる分確保しといてくださいね」  そう言う白さんの小皿には既に大量の料理が乗っていた。  それを見て、僕が慌てて料理を小皿に移していると、小皿にある程度移し終えたみんなが、ご飯を口にしながら、口々に僕に話し掛けてきた。 「若造、たくさん食べんと元気にならんぞ」 「僕はお前のこと認めたつもりないからね! 白に付き纏わないでよね!?」 「どういう人なのかわからないけど、白が連れてきたなら良い人なんだろうね?」 「ご飯美味しい」 「拓斗さん、これからよろしくお願い致します」 「よろしくな、タクト!」 「よろしく〜」 「拓斗よ、精進するんじゃぞ」 「わからないことがあれば僕にいつでも聞いて下さいね」 「よろしく頼む」 「よろしくおなしゃーす」 「辛いことがあったらいつでも言うのよ」 「いつでも頼ってくれ」 「タクト、歓迎されて良かったわね〜」 「みんな貴方を認めてくれてますので安心してくださいね」  怒涛の挨拶の波に、僕はうんうんと首を縦に振るしか無かったけど、思いのほか、みんな歓迎してくれているようで、僕はすごく安心した。ただ一人を除いてはだけど。前に会った優輝さんは、白さんに凄い好意を抱いているみたいで、白さんが連れてきた僕を良くは思っていないらしい。けれど白さんは「優兄のことは気にしないで下さいね」と、軽いノリで言ってきたので、そこまで気にすることでもないと思い、気にしないことにした。
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