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言えなくて
「勇。はい、これ。プレゼント」
広くんは抱えるくらいの四角い紙袋をボクに手渡す。
「なん……デスカ?これ?」
「開けてごらん」
中には、お空みたいな水色の座布団が入っていた。
「学校の椅子にちょうどいいと思って、買ってきた」
ボクの学校は、椅子に座布団を敷いてもいいことになっている。
「いいの!?お誕生日じゃないけど、プレゼントもらっていいん……デスカ!?」
「もちろん。勇は、いつもお勉強もお手伝いも頑張ってるから、ご褒美だよ」
「ありがとう……広くん……」
「どういたしまして」
その座布団は、とってもふかふかで気持ち良くて、次の日から学校が前よりも楽しくなった。
今日は、朝起きた時から凄く寒い。広くんとのいつもの朝の日課が終わって、広くんがタンスから出したスパッツを手渡す。
「今日は、お外すごく寒いから、スパッツ履いていこうか」
「うん」
スパッツを履くとお尻が少しモコモコとしちゃうけど、とっても温かい。
外に出ると冷たい風が、体に吹きつきつけてくる。スパッツを履いていたけど、ものすごく寒くて、学校に着く頃には、すっかり体が冷えてしまった。でもボクの椅子には、あのふかふかの座布団があって、じんわりと冷え切ったお尻を温めてくれた。
1時間目は、算数で足し算と引き算の文章問題だ。教科書の問題をそれぞれ解いてる時、担任の葉山智子先生は、グルグルと教室の中を歩き、みんなの様子を見てまわる。
葉山先生は、とても優しく、先生を見てるとほわ~とした気持ちになる。ボクの家のことも知っていて、転校してきて慣れないボクに、たくさん声をかけてくれた。他の先生には、なかなか声を掛けられなかったけど、葉山先生には自分からお話ができた。
前の席の淳くんが、何度も後ろを向いて話しかけてきたけど、葉山先生が注意してくれて、時間内に全ての問題を終えることができた。ホッとしたら、少しおしっこがしたくなったけど、すぐにチャイムも鳴る。
トイレに行こうと教室を出ようとしたら、雅也くんに呼び止められた。
「ねぇ、勇くん見て。ぼくの座布団、昨日ママに買ってもらったの」
雅也くんはお話好きで、1度話し出したら止まらなく、もう座布団から昨日のアニメの話になってる……おしっこはまだ余裕があったし、ボクは友達の話を止めたり、遮ったりするのが苦手で、そのまま雅也くんの話を聞いていていると、花音ちゃんが入ってきた。雅也くんが花音ちゃんと話し始めたから、今のうちに……とボクはそっと抜けて、教室を出ようとする。
「勇くん、どこ行くの?もう、次の勉強始まるよ」
花音ちゃんに後ろから声をかけられた。
「あっ……えっと……」
「ほら、長い針がもう6になりそうだよ」
2時間目は、9時30分からで、時計はすでに9時28分だ。
「あー、うん」
確かにチャイムが鳴るまでに戻ってこれないかもしれない……考えてるうちにチャイムが鳴り、もう自分の席に戻るしかなかった。まだ、そんなにしたくないし、大丈夫だよね……
2時間目は国語だ。いつも葉山先生は、チャイムが鳴るとすぐに来ていたけど、今日はなかなか来ない。クラス全体がザワザワし出した頃、男の先生が教室に入ってきた。
確か、岩田先生。いつも職員室にいて、全校集会をやる時とか、ステージの上でとても大きな声で話す先生だ。体も大きくて、すこしおっかない……。
「葉山先生は用事で少し遅れるから、それまで先生が国語の授業をするぞ。はい、日直!号令!」
教室の中でもやはり、岩田先生の声は大きく響き、みんなが少し緊張する。
ボクは、葉山先生が来ないことに、ドキン……と不安が押し寄せる。さっきまでそうでもなかったのに、急におしっこがしたい気持ちが強くなった。
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