言えなくて

2/3
前へ
/53ページ
次へ
 国語の勉強は漢字のワークで、漢字を10回ずつ書く。ボクは、どんどんおしっこに行きたい気持ちが強くなりつつも、なんとかワークに取り掛かる。2種類20個の漢字を書き終わったところで、手が止まる。もうかなりおしっこがしたくて、両手で押さえてないと漏れそうだった。  先生に言ったら、行かせてくれるかな……  でも、怒られるかもしれない……  クラスのみんなにも、笑われちゃうかな……  葉山先生、早くきて……  漢字を書かなきゃと思い、右手を離して鉛筆を持つと、じゅわっと少し漏れて慌てて、右手を元に戻す。  ちょっと出ちゃった……  どうしよう……どうしよう……  うーおしっこ……おしっこ……おしっこ……  一旦引いた波が、また強い波になって襲ってくる。  しょわわわわわ………  強く握ったけど、止まらなくて、どんどんボクのお尻を温かくしていく。  どうしよう……どうしよう……どうしよう……  止まらない……  ドクドクドク………  目には涙も溜まってくる。  どうしよう……どうしよう……どうしよう……  1度一気に出てしまったおしっこは、もう全く止まらなかった。  全部……出ちゃった……  ドキン……ドキンドキン……  どうしよう……どうしよう……うー広くん……  おそるおそる握っていた手元を見てみると、手はべっちゃり濡れているけど、黒いズボンだったので、見た目はわからなかった。また、座布団がほとんど吸収して、床も濡れていなかった。  誰もボクが、おもらしをしたことに気づかないけど、ぐっしょりおしっこ吸った座布団とぐっしょり濡れて足に張り付いているスパッツの存在が、ボクにおもらしをした事実を突きつけてくる。  2時間目が終わる10分前にやっと葉山先生が来て、岩田先生が職員室に戻っていった。ピリッとしていた教室も和む。岩田先生がいた時は静かにしていた淳くんも、いつものように後ろを向いて、ボクのワークを覗き込んできた。 「あれー、勇、全然やってないじゃん!サボってたなー。だーめなんだー」  淳くんの声で、一気にボクに注目が集まり、教室がザワザワうるさくなる。 「はい!まだ、お勉強の時間は終わってないよ。静かに~」  葉山先生が、みんなに注意するけど、淳くんは納得できないように食い下がる。 「だって!先生!勇、全然やってないんだよ。ダメじゃん」 「それはあとで先生が勇くんとお話しするからね。淳くんもまだ終わってないよね」  そうしているうちにチャイムがが鳴って、終わりの挨拶をすると、一気にまた教室が賑やかになる。今日の中休みは、1年生全体の遊びの日だから、みんなは教室を出て体育館へと向かう。  ボクは俯いたまま、動くことができない。何人かチラチラ、ボクの方を見ていた気がしたけど、あっという間にみんないなくなって、ボクと葉山先生だけになった。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加