言えなくて〜その後〜

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言えなくて〜その後〜

 今日は荷物が多い。パンツとズボンと座布団。座布団は大きくて、ランドセルに入らなかったけど、広くんが何も聞かずに持ってくれた。葉山先生は、広くんに正直に話すんだよって言ったけど、さっきから何度も話そうとしても、言葉が出てこない。 「……う……ゆう?」 「え?」 「どうした?ボーッとして」 「あっいや……ごめんなさい」 「いや……いいんだけど……何かあった?」 「………」  言わなきゃ、言わなきゃ……今日おしっこ漏れちゃったって…… 「……そうだ、勇。今日何食べたい?」 「きょう……」 「うん。何がいい?」 「きょう……お……」 「お?」 「お……にぎり……」 「おにぎり?!夜ご飯だよ」 「あ、いや……違って……」 「あはっ、いいよ。おにぎりにしよう。勇の好きなタラコのおにぎり」  そう言うと、広くんは手をボクの頭にのせる。  はぁ……言えなかった……どうしよう……  今日の昼に葉山先生から電話があった。勇が学校で漏らしてしまったこと、座布団を汚して落ち込んでいること。葉山先生は、自分で言うように伝えたので、話があるまで少し待っていて欲しいと言っていた。  帰り道、勇はずっと心ここに在らずで、話かけても上の空。また、何度も何かを言いたそうに、見つめてきたけど、結局何も言わないまま家に着いた。そんな姿はなんとも、もどかしく見ていて切ない……  さて、どうやって誘導したものか……  家に着いてランドセルを棚に置く。中には、汚れたパンツやズボンが入っていた。  洗って貰わないと……広くんに言わないと…… 「ゆーうー。洗濯するから、給食袋とか洗うの出して~」  今日は金曜日で、洗うために給食袋を持って帰って来ている。そっか!給食袋と一緒に持っていけばいいかもしれない。 「はい」 「はい、ありがと」  もう一方の手には、ズボンが入った袋を持って、どうしようか迷う。 「ん?どうした?まだ洗うものあった?」  広くんは、優しくボクを見つめてきて、そっと袋を渡す。 「ん?これは?」  袋を覗き込みながら、広くんが聞いてくる。 「えっと……その……今日ね……」  目にだんだん涙が溜まってきて、必死に泣くのを我慢する。 「うん」 「今日……ボク……うっうっ……」 「うん。ゆっくりでいいから、聞かせて」 「がっ……がっこうで……うっ……うっ……お……おしっこ……もれちゃった」 「パンツも……うっ……えっく……ズボンも……よごしちゃった……ご……ご……めんなさい……」 「自分からよく言えたね。エライよ、勇」  そう言って広くんはボクを優しく抱きしめる。 「うっうっうっうっ……ご……ごめんなさい。ごめんなさい……ひっ…ひろくんが……かってくれた…ざ…ざぶとんも…よごれちゃった……」 「そっか。大丈夫、大丈夫。洗ったらきれいになるから。そうだ、じゃあ今から一緒に洗うか」 「うっうっうっ……うん」 「あれ?今日の晩飯、おにぎり?なんで?」  幸兄ちゃんが帰ってきて、テーブルあるおにぎりの山と焼魚と豚汁を見て不思議がる。 「今日は勇のリクエストだもんな」  ニコニコ顔の広くんと目が合い、どんな顔をしていいのかわからなくてうつむいた。でも、胸のつかえは全部とれて、ボクの大好きなタラコのおにぎりはたくさん食べれそうだった。
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