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「ヘックションッッ」
「幸司、大丈夫?風邪?」
一緒にバイトをしている浅岡幸也に声をかけられる。
「いや……これは、誰かが噂してるな……」
「あはっ。1回だから褒められてるんじゃない?」
「どうだか……」
今朝の勇の失敗を思い出していた。オレも勇くらいの時、おねしょやおもらしが酷くなった時期があった。
確か……母さんがいなくなって、少したった頃……
勇が失敗して泣いている姿を見るたび、あの頃の苦い思い出が蘇り、少し胸がざわつく。漏らしちゃった朝は、恥ずかしくて悲しくて、罪悪感がいっぱいになった。
小学生になって初めて盛大に漏らした時もそうだった。
うそ……どうしよう……
ぐっしょり濡れた布団とズボンを呆然と見つめる。幼稚園のときだって、ほとんどしてなかったのに……もう2年生なのに……それなのに……
ドキ ドキ ドキ……
怒られちゃう……怒られちゃう……
「幸?」
急に後ろから父さんに声をかけられ、ビクンっと体が跳ね返る。
「あちゃ。漏らしちゃったのか。めずらしいな……」
どうしよう……怒られる……どうしよう……
父さんの方を見れない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ハッハッハッ……」
うまく息ができない……
「こう。落ち着いて。ゆーっくり息をして。大丈夫だから。父さん、怒ってないよ。大丈夫」
過呼吸を起こしかけていたオレを抱き寄せて、優しく背中をさすってくれる。
「はぁ……うっう……ごめん……なさい」
「幸はおねしょなんて、ほとんどしたことなかったから、ちょっとビックリしたな。でも、もう大丈夫だから。洗ったらすぐにきれいになるから、何も心配いらないよ」
「うっ…うっん…」
「さあ、、お風呂に行こう。このままじゃ風邪ひいちゃう」
濡れるのを気にせず、オレをひょいと抱き上げて、お風呂場に向かった。
そうだ……幸も盛大にやらかしてたな……確か……酷くなった時期があったんだ。勇に幸司の話をしたら、昔の記憶が一気に蘇ってくる。あの時期は、僕も幸司も少ししんどかった。
勇がいることで、あの時の苦さを思い出してしまうのも事実だ。幸司とは、勇を引き取る前に何度も話をして、決めていたけど、幸司に辛い思いをさせてしまっているかもと思うことはあった。
それでも、勇を引き取ったことは、後悔していない。
「広くん?」
心配そうに、勇が覗き込んでくる。
「ん?大丈夫だよ」
勇の頭を軽く撫でる。
「うん……あ、あのやっぱりおなかすいちゃった」
「そうだね。朝ごはんにしようか。勇、ちょっと手伝ってくれる?」
「うん!」
笑顔になった勇を見ると、昔の苦さも吹き飛ぶ。そんな勇を促して、キッチンへと向かった。
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