初夜

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「ひっく……ひっく……んん……ひっ…ひっく」 「ん~ゆう?」  ビクーっと体が硬直する。  ドクン、ドクン、ドクン……  心臓がうるさいくらい鳴って、ぎゅーっと目を瞑った。 「どうした?怖い夢でも見た?」  広くんは布団から起きてきて、パッと常夜灯の柔らかい光がボクと布団と全てを照らした。 「あー。漏らしちゃったか」  ボクは動けず、ボロボロ涙だけが溢れる。 「ひっく……ひっ……ひっく……」  その時、頭の上に大きな手が乗り、ポンポンとたたいて「大丈夫、大丈夫」と優しい声。ボクは堰を切ったように「わーん」と泣いてしまった。こんなに泣くのはいい子じゃないのに……でも、止められなかった。  広くんは、ボクを抱っこして膝の上に乗せて何度も「大丈夫、大丈夫」と言いながら、体をさすってくれた。ボクが少し落ち着くと抱っこしたまま立ち上がる。 「風邪引いちゃうから、お風呂行こうか。おっと、これも持っていかないと」  なかなか見つからなかったリュックも、ひょいと持ち上げて部屋を出た。 「あ……あの、ボク……歩け……ます……」 「いいの、いいの。こういう時は甘えてもいいんだよ」  お風呂でキレイに洗って、拭いて、着替えさせてくれた。ボクは「一人でできます」って言ったのに、広くんは「いいの、いいの」と全部やってくれた。 「たくさん泣いたから、喉かわいたよね」 「ちょっと、ここで待ってて。片付けてくるから」  温めたミルクを手渡し、広くんは部屋を出て行く。もらったミルクを一口飲むとほどよく温かくて、甘くて美味しかった。 「2時か……朝まではこっちの布団で一緒に寝ような」 「えっ……でも……」 「勇の布団は乾かしてるから」   戸惑っていると強引に、引っ張られ寝かされ、隣には広くんがいる。  同じお布団で寝て大丈夫かな……もし、またおねしょしちゃったら、どうしよう……  そんなことが頭の中をグルグルして、なかなか眠れない。 「勇。眠れない?」 「あっ……いや……そうじゃなくて……」 「ん?どうした?何か心配?」 「えっと……その……また……」 「また……?あー、漏らしちゃったらって?うーん。大丈夫だと思うけど、心配なら下にバスタオル敷いておこう。これなら、もし漏れちゃっても布団は汚れないから」  広くんは、素早くボクの下にバスタオルを敷いて、ボクの顔を覗き込みフッと笑う。 「こうやって寝ると、お互いの心臓の音で落ち着いて眠れるんだって」そう言うと、ボクの体を抱き寄せた。  トクン、トクン、トクン……  広くんの心臓の音が聞こえる……暖かいな。ボクはそのまま、ゆっくり眠りに落ちていった。  カーテンからの光で目が覚めた。隣にはもう広くんはいなくて、朝の準備をしているのだろうか。ハッと気づいて、ズボンとバスタオルを触ってみると濡れてなくてホッとする。 「ゆう」  ガチャとドアが開いて、広くんが入ってきた。 「あ、起きてたね。おはよう、勇」  広くんと目が合い昨夜のことを思い出して、恥ずかしいような申し訳ないような……でも、広くんのニコニコの顔が嬉しいような複雑な気持ちで「おはようございます」と挨拶をした。
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