過去の話〜幸司編〜

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過去の話〜幸司編〜

 勇を見てると昔の自分を見ているようで、苦しくなることがある。オレも昔は、ズボンを濡らすことがよくあった。 母さんがいなくなって、しばらく経った頃だ。それまでは、全くと言っていいほど、おねしょもおもらしもなかったが、急に気づいたら、限界を迎えている事が多くなり、間に合わないことが増えた。  勇を見ていると、あの時の苦い気持ちが思い出され、勇の気持ちも痛いほどわかった。  じゅわわ……  え……やばっ……  股間を押さえて布団から飛び起き、トイレへ駆け込む。残りを出し切り、濡れてしまった下着を見ると、パンツには丸く10cm程のシミが出来ていたけど、ズボンは無事だった。 「はぁ~」  そんなに漏れてないことに安堵するも、パンツについたシミを見て、高校生にもなって濡らしてしまった自分に呆れ、情けなくなる。時計を見るとまだ、5時前だったけどもう眠ることはできなかった。  なんで、今さら……もう何年も漏らすことはなかったのに…… 「……じ……こうじっ」 「あぁ……幸也か」  肩を掴まれて、すぐ後ろに幸也がいた。登校時、何度も声をかけられていたようだが、気づかなかった。 「どうしたの?具合悪い?」 「いや……ちょっとボーっとしてた」 「最近、なんか変だよ。何かあった?」 「ん?んーそんなことは……」 「あっ、今一緒に住んでる、勇君のこととか……」  心配そうに幸也が見つめてくる。こいつは、なかなかに鋭い…… だけど、今朝漏らしてしまったと言えるはずもなく、誤魔化す言葉を考える。 「何もないって。今日の英語、絶対当たるからマズイなぁって思って……」 「ほんと?」  幸也のまっすぐな視線に、目が泳ぐ。 「ほんと、ほんと。ったく、幸也は心配性だなー」  幸也の視線を振り切って、歩調を速めて先を急ぐ。 「……はぁ……今日はそういうことにしておくけど……」 幸也の呟きが聞こえて振り返ると、目があった幸也は首を振っていた。
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