過去の話〜幸司編〜

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 オレは、ちょっと漏らしちゃった日から、寝るときに気が抜けなくなり眠りが浅くなった。それ以降、漏らすことはないが寝不足が続いている。 「ふぁ~」大きなあくびが出る。 「眠そうだね」 「幸也……うん……ちょっとな」 「眠れてないの?」 「そういう訳じゃないんだけど……」 「幸司っ、この間から……」  途中でチャイムが鳴り、オレはこれ幸いと〝席に戻れ〟と手で幸也を追い払い、何か言いたそうにしながら、席に戻っていく幸也を見送る。 「はぁ……」  次は、ボソボソと喋る先生の現国だ。その声は、今のオレには子守唄のようで、ついウトウトとしてしまう。 「先生……」  こそっと保健室の中を見て、中に誰もいないか確認する。 「あっ、コウ。またか?」 「んー。篠田先生のイジワルー」 「ごめん、ごめん。今、俺しかいないから、早く入って着替えな」  カーテンの奥に入り、ズボンを脱ぐとパンツがぐっしょり濡れている。 「ズボンは、無事かー?」 「たぶん……大丈夫……かな」  着替え一式と濡れタオルを持った篠田先生がそばに来て、パンツも脱いでスースーする下半身を温かいタオルで拭いていく。タオルは温かくて、気持ちいい。 「濡れたパンツの上にズボン履いてたから、ちょっと湿ってるな。両方替えちゃおう」 「うん……」 「ほら、元気出せ。体調は?悪くないか?」  着替え終わって、篠田先生がオレの額に手を当てる。 「ん……んー。ちょっと熱いか?一応、熱計っておこう」そう言うと、オレの脇に体温計を挟み、固定させるように腕を押さえた。 「37.2℃……ちょっと微熱あるな。コウは少し体調が悪い時に失敗しやすいな……担任の先生には話しておくから、次の時間は保健室で休もう」 「……うん。でもオレ大丈夫だよ」 「一応、念のためな。休んで熱下がったら、また教室に戻ろう」 「わかった」 「じゃあ、ちょっと職員室行ってくるから、座って休んでて」  篠田先生がいなくなったあと、誰かが戸口の所で中を伺っているのが見えた。目が合うと幸也だ。 「幸也君?どうしたの?」 「あっっ、幸司君……えっと……先生は?」 「篠田先生は職員室で、牧野先生はわかんない」 「そっか……」  戸口からなかなか入ってこない幸也。チラッと見えたズボンは、濡れているようだった。 「もしかして、着替えに来た?」  幸也は一瞬、泣きそうな困った顔をしたがすぐに、バツが悪そうに照れ笑いをする。 「へへっっ……失敗しちゃった……」  幸也は、保健室に入ってキョロキョロと着替えがしまってある場所を探す。 「幸司君はどうしたの?」  急に聞かれて、心臓が跳ね上がる。 「えっ……えっとー、ちょっと微熱があって……」  オレもさっき同じ状態で着替えたとは言いづらく、誤魔化してしまう。 「そうなの?大丈夫?」  本気で心配してくれる幸也に、チクっと胸が痛む。  ウソじゃないし……  オレは自分に弁解するように何度も思う。
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