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「あれ?ユキ?」
「篠田先生……えへへ……」
戻ってきた篠田先生は、幸也の様子を見てすぐに納得し、オレの時と同じく着替えと濡れタオルを用意する。
「お前ら、同じタイミングで漏らすなんて仲良いな」
「え?」と幸也がオレの方を見てくる。
「あーいやっ……そのっ……えっと……」
「なんだ?コウ、自分だけカッコつけるなよー」
「いやっ……そうじゃなくて……」
もう、なんて言っていいかわかんなくて、うつむいてしまう。
「熱があるんじゃないの?」
「あぁ、熱があるのも本当なんだけど、そもそも保健室に来たのは、着替えるためだもんな」
「……ごめん」
「なーんだ。幸司君も同じだってわかって、ちょっとホッとしたー」
オレが誤魔化してたことは、気にする素振りもなく、幸也は笑う。
「ほらほら、早く着替えないと休み時間終わっちゃうよ」
幸也と先生はカーテンの奥に入っていく。
予鈴が鳴り、5分後には本鈴がなって、授業が始まる。
「さぁ、ユキは教室戻れー。あ、その前に2人ともトイレ行ってからだ。コウは、また戻ってこいよ」
オレも幸也もまだ、別に行きたくないって文句を言ったけど、文句はズボンを濡らさなくなったら言えって言われて、渋々トイレに向かう。だけど、トイレに行くと結構たくさん出て、何で?と思う。
保健室に戻ると、ニヤニヤした篠田先生に声をかけられる。
「おしっこ出ただろ?」
認めたくないけど、篠田先生の言う通りだ。
「……うん。先生は何でわかったの?」
「ん?コウはね、熱とかあるといつもより、おしっこを貯める力が弱くなるから。最近は、ちょっとおしっこしたい気持ちもわかりにくくなってるし、いつもより早めに行かなきゃダメなんだ。ズボン2枚は持って帰りたくないだろ」
「うーうん…」
「素直でよろしい。次は30分後ぐらいかな。具合はどうだ?悪くないか?」
「うん。大丈夫」
篠田先生は、児童精神科のお医者さんで、週2日は大学病院で3日は学校で仕事している。オレは母さんがいなくなってから、漏らすことや今回のような微熱や頭痛など、体調不良が増えて、篠田先生に勧められて、先生の勤務する大学病院を受診していた。病院には篠田先生もいて、絵を描いたり、クイズみたいな問題をやったりした。父さんも先生とオレの小さい頃の話とか、母さんの話とかしていた。
篠田先生からは、今のオレは色々なことを無意識のうちに溜め込んで、うまく外に出せなくなっているのではないかって言われた。それで、体が苦しいって悲鳴をあげて具合が悪くなっちゃう。不定愁訴と言うらしい。そうなると体の機能がうまく働かなくなって、おしっこをうまく溜めたり、どれくらい溜まっているかわからなくなってしまうことがあるらしい。篠田先生は、オレの主治医でもあって、ときどき保健室で色々とお話をしていた。
ガクッと大きく頭が落ちて、現実に引き戻される。まだ、現国の授業は続いていて、先生はボソボソと喋っていた。
あぁ……懐かしい夢を見たな……篠田先生は元気かなぁ……
そんなことをボーッと考えていると、またウトウトとしてしまう。
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