過去の話〜幸司編〜

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帰りのHRが終わり、大きく伸びをしている幸司に近づく。 「さっきの時間も眠そうにしてたね」 「……幸也。はぁ…お前、どんだけオレのこと好きなんだよ……」 「ぼくは……ただっ!」 「帰ろうぜ。今日は勇を迎えに行かなきゃならないんだ」  幸司は、ちょっと困った顔をして、ぼくの肩を軽くたたいて席を立つ。  そんな顔を見たら何も言えなくなるじゃないか……誤魔化すのは、幸司の得意技だ。でも、もうこんな状態の幸司は、見ていられない。 「……わかったよ……幸司がいつまでも誤魔化すなら……」 「え?幸也、何か言った?」  幸司が振り向き、聞いてくる。 「今日、泊まりに行ってもいい?明日休みだし、しばらく泊まりに行ってなしいいよね!」 「おまっっ……何で……急に……」 「いいよね!!」そう言って、まっすぐに幸司の顔を見る。 「……はぁ……別にいいけど。今日、父さん遅いし、残り物のカレーしかないぞ」 「じゅうぶん!2日目のカレーは超美味しいじゃん」 「幸也くんも一緒?どうしたの?」  学童保育で勇くんと顔を合わせると、不思議そうに聞いてきた。勇くんとは、幸司の家に遊びに行った時に会っていて、少し仲良くなっていた。 「勇くん、こんにちは。今日は勇くんのお家にお泊りしてもいいかな?」 「えっ?お泊り?幸也くんお家に泊まるの?」 「うん。だから、帰ったらいっぱい遊ぼうね」  満面の笑みの勇くんの顔を見ると、ぼくまで嬉しくなってしまう。ぼくにも弟がいたら、こんな感じかなーと可愛くて、つい顔がにやけてしまう。 「よし、じゃあ帰るぞ……ん?勇、その袋なんだ?」  幸司の言葉に困惑した顔で下を向く勇くんの手元には、ぼくもよく持ち帰された懐かしいものがあった。あぁ……ぼくも幸司も視線を合わせて、納得する。 「あの……えっと……ズボン……濡れちゃって……」 「うん……そっか……」  何とか言葉を繋げる勇くんを幸司は、苦しそうな表情で見つめている。そんな幸司を見て、やっぱり幸司は勇くんのことで悩んでいるのかもしれない……と思う。 「幸司、懐かしいね。ぼくらもよく持ち帰ったね」 「え?」   顔を上げて、勇くんが見つめてくる。 「勇くん、ぼくも幸司もね、学校でよく失敗しちゃってね。着替えて持ち帰ってたんだよ」 「ばっ……な……なに言ってんだよ!」 「えーだって、本当のことでしょ。そんなことで勇くんにかっこつけなくったっていいじゃん」 「そうなの?」 「そうそう。だから勇くん、そんなにションボリしなくて大丈夫なことだよ。ねっ?」 「……ああ。そうだな」 「うんっ」  勇くんに笑顔が戻り、幸司もホッとした顔になる。ほんっと、昔から変わらず不器用なやつだ……
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