台風の夜に⑴

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台風の夜に⑴

 ボクがこの家に来て2週間が過ぎた。少しずつこの家には慣れてきて、どこの部屋に何があって......とか、何時にご飯を食べてお風呂に入るとか......わかってきた。  そして広くんも幸兄ちゃんも、いつも優しいということも。 『台風10号は、今夜上陸するとみられ、雨風が強く...』TVのアナウンサーの声が聞こえる。 「幸、今日バイトなかったよな。悪いけど早めに勇のお迎えお願いできるかな」 「あぁ、そうだな。夕方から雨も降ってくるし。いいよ」 「勇、今日は父さんじゃなくオレが迎えにい行くからな」 「あ、はい」  ボクは学校が終わったら学童保育という所で遊んだり、宿題をしながら迎えに来てくれるのを待っている。いつもは、広くんが仕事帰りに迎えにきてくれて、幸兄ちゃんが迎えに来てくれるのは初めてだ。  宿題が終わったと同時に、迎えが来たと声をかけられ、急いで片付けて玄関に行くと制服姿の幸兄ちゃんがいた。 「待たせたな」  全然そんなことなくて、いつもよりずっと、ずっと早い。急いで長靴を履いて、外に出ようとしたら幸兄ちゃんが声をかける。 「待った、待った。雨がひどくなってきたからな。そんなんじゃ、ずぶ濡れだ」   ボクにカッパのフードかぶせ、首から下までびっちりボタンをしめた。 「よし、じゃあ帰ろうか」  外に出るとけっこう雨風が強くて、ボクも傘を持っていたけど、全然させなかった。だけど幸兄ちゃんは、ボクの手を引いて傘をさして何事もないように、歩いていく。 「うわー。けっこう濡れちゃったな。勇は大丈夫か?」 「カッパ着てたので、大丈夫です」 「それなら良かった。オレはちょっとシャワー浴びてくるから、テレビでも見てて」  幸兄ちゃんが行ってしまうと、広いリビングに1人だけになった。この家は少し古くて、玄関の引き戸も窓も強い風が吹くとガタガタ音を立てて立てる。  ドキン、ドキン、ドキン......  お母さんと一緒のときは、1人でお留守番もよくしてたし、1人で寝たこともあるけど、こんなに寂しく不安にはならなかった。  今は、いつでも広くんか幸兄ちゃんがいて、1人になることはなかった。  ガタガタガタ.....  ドキン、ドキン、ドキン......  勝手に目に涙が溜まってくる。  あれ......ボクはもう赤ちゃんじゃないのに......1人でお留守番もできるいい子なのに...... 「勇?どうした?」  ボクはランドセルを背負ったまま、立ち尽くしていたらしい。ビクッとして、声の方を見ると頭をガシガシ拭いている幸兄ちゃんがいた。  ガタガタガタ......  また、ビクッ体が強張る。 「風、すげーな。まずは電気、電気......」  パッと一気に部屋の中が明るくなり、いつも見慣れてるリビングにホッとする。その時、ガチャとリビングのドアが開いて、広くんが入ってきた。 「いやー。まいった、まいった。ビチョ濡れだわ」 「あ、父さん。タオル、タオル」 「あれ?勇、どうした?そんな顔して」  広くんの顔を見て、涙が溢れるのを必死に我慢して腕で拭う。 「なんでもないです。おかえりなさい」 「ちょっとオレがシャワー入ってたからさ、その間、勇を1人にさせちゃったんだよね。風の音も凄かったし、不安にさせたのかも」  タオルを受け取りながら「そっか」とボクの頭を優しく撫でる。 「父さんもびしょ濡れだから、お風呂入ってきたら?もうすぐ、お湯も溜まるよ」 「そうだな。そうするわ」 「勇、せっかくだから一緒に入ろう」 「えっ......」 「男同士、裸の付き合いだ」  広くんは、そう言って強引に背中を押して風呂場までボクを誘導した。
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