19人が本棚に入れています
本棚に追加
足をモゾモゾさる。
「勇、おしっこじゃないの?トイレに行っといで」
すかさず、広くんに言われて、トイレに向かう。
チョロチョロチョロ……
いつもと違って、ちょっとずつしか出ない。
「勇、行くよー。早くおいでー」
「えっ……待って……おしっこがまだ……終わってないよ……」
「勇ー早くしないと、置いていちゃうよ」
「広くん、待って…待って。あーもう早くおしっこ終わってよ」
チョロチョロチョロ……
だけど、やっぱりちょっとずつしかでなくて、終わらない。
「なんで……」
「ゆうー先に行ってるよ」
「まってーまってー広くん。まってー」
「勇……勇、起きて」
常夜灯明かりがボワーっと辺りを照らしている。広くんがすぐ横にいて、体を起こしてボクに声をかけていた。
「広くん……よかった……」
広くんがいることに安堵したのは束の間で、お尻の違和感で一瞬で、またやってしまったと絶望的な気持ちになる。そしてそのまま、丸くなって布団に顔を埋める。
「勇。大丈夫だから。起きて着替えよう」
「うっ…うっ…ごめんなさい」
起き上がると、ぐっしょりと濡れている布団が嫌でも目に入ってくる。ズボンは今、やっちゃったばっかりのようで、まだじんわり温かい。そして、一緒に寝ていた広くんのパジャマもお腹のあたりが、濡れて色が変わっている。
「あっ……どうしよう……ごめんなさい」
「あ、これは着替えれば大丈夫だから。ね」
ボクの視線に気づいた広くんが、ボクの頭に手を乗せて、そう言った。
着替えて、今度は広くんの布団に2人で入る。もう、早朝の4時で寝るのも微妙な時間だ。広くんは、いつものようにボクを抱きしめながら、優しく背中をさすってくれる。
「勇は、この時期、失敗しやすいんだよね」
「な……んで……」
「ん?勇が前にいた施設の先生が話していたよ」
ドキッとする。広くんは、今までのことも全部わかってるのかもしれない……
あの時みたくオムツを履いてと言われるのではないかと身構える。
「この時期は、何かあったのかな。何か嫌なこととか……」
「えっ……」
「勇が今、何か辛くてしんどそうだからさ」
広くんの方をみると、ちょっと困った顔をして見つめてくる。
「お母さん……お母さんが入院したの……」
「そっか……入院したの、この時期だったのか……勇は寂しいの我慢してたんだな。だから体からのしんどいのサインだったのかな」
「サイン?」
「そう。そういう時は、どんなに頑張っても失敗しちゃいやすいだよ。だからね、勇はあんまり気にしなくてもいいんだよ」
「オ……オムツ履いた方がいい?」
ずっと思ってたことを、思い切って聞いてみる。
「ん?」
「し、施設の先生は……履かないとダメだって……おねしょ……する子は……あ、赤ちゃんんと同じだって……」
「勇は履きたいの?」
ボクは大きく首を振る。
「は、履きたくない……赤ちゃん……じゃない……」
漏らしたばっかりで、説得力はなく、声は小さくなる。
「うん。勇は、赤ちゃんじゃないよ。お勉強もお手伝いも、出来ることいっぱいあって立派な小学生だ。勇が履きたくないなら、履かなくていいよ」
「でも……お布団……汚れちゃう」
「防水シーツ敷いてるし、シーツもパジャマも洗えば綺麗になるんだから、勇は何も心配することはないよ」
広くんは、優しく笑いながら、全然大したことないって抱きしめる。広くんがそう言うなら、そうなのかもしれない。今まで気になっていた、1つの胸のつかえとれて、気持ちが少し楽になった。
最初のコメントを投稿しよう!