憂鬱な季節

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足をモゾモゾさる。 「勇、おしっこじゃないの?トイレに行っといで」  すかさず、広くんに言われて、トイレに向かう。  チョロチョロチョロ……  いつもと違って、ちょっとずつしか出ない。 「勇、行くよー。早くおいでー」 「えっ……待って……おしっこがまだ……終わってないよ……」 「勇ー早くしないと、置いていちゃうよ」 「広くん、待って…待って。あーもう早くおしっこ終わってよ」  チョロチョロチョロ……  だけど、やっぱりちょっとずつしかでなくて、終わらない。 「なんで……」 「ゆうー先に行ってるよ」 「まってーまってー広くん。まってー」 「勇……勇、起きて」  常夜灯明かりがボワーっと辺りを照らしている。広くんがすぐ横にいて、体を起こしてボクに声をかけていた。 「広くん……よかった……」  広くんがいることに安堵したのは束の間で、お尻の違和感で一瞬で、またやってしまったと絶望的な気持ちになる。そしてそのまま、丸くなって布団に顔を埋める。 「勇。大丈夫だから。起きて着替えよう」 「うっ…うっ…ごめんなさい」  起き上がると、ぐっしょりと濡れている布団が嫌でも目に入ってくる。ズボンは今、やっちゃったばっかりのようで、まだじんわり温かい。そして、一緒に寝ていた広くんのパジャマもお腹のあたりが、濡れて色が変わっている。 「あっ……どうしよう……ごめんなさい」 「あ、これは着替えれば大丈夫だから。ね」  ボクの視線に気づいた広くんが、ボクの頭に手を乗せて、そう言った。  着替えて、今度は広くんの布団に2人で入る。もう、早朝の4時で寝るのも微妙な時間だ。広くんは、いつものようにボクを抱きしめながら、優しく背中をさすってくれる。 「勇は、この時期、失敗しやすいんだよね」 「な……んで……」 「ん?勇が前にいた施設の先生が話していたよ」  ドキッとする。広くんは、今までのことも全部わかってるのかもしれない……  あの時みたくオムツを履いてと言われるのではないかと身構える。 「この時期は、何かあったのかな。何か嫌なこととか……」 「えっ……」 「勇が今、何か辛くてしんどそうだからさ」  広くんの方をみると、ちょっと困った顔をして見つめてくる。 「お母さん……お母さんが入院したの……」 「そっか……入院したの、この時期だったのか……勇は寂しいの我慢してたんだな。だから体からのしんどいのサインだったのかな」 「サイン?」 「そう。そういう時は、どんなに頑張っても失敗しちゃいやすいだよ。だからね、勇はあんまり気にしなくてもいいんだよ」 「オ……オムツ履いた方がいい?」  ずっと思ってたことを、思い切って聞いてみる。 「ん?」 「し、施設の先生は……履かないとダメだって……おねしょ……する子は……あ、赤ちゃんんと同じだって……」 「勇は履きたいの?」  ボクは大きく首を振る。 「は、履きたくない……赤ちゃん……じゃない……」  漏らしたばっかりで、説得力はなく、声は小さくなる。 「うん。勇は、赤ちゃんじゃないよ。お勉強もお手伝いも、出来ることいっぱいあって立派な小学生だ。勇が履きたくないなら、履かなくていいよ」 「でも……お布団……汚れちゃう」 「防水シーツ敷いてるし、シーツもパジャマも洗えば綺麗になるんだから、勇は何も心配することはないよ」  広くんは、優しく笑いながら、全然大したことないって抱きしめる。広くんがそう言うなら、そうなのかもしれない。今まで気になっていた、1つの胸のつかえとれて、気持ちが少し楽になった。
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