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「勇?」
幸也と一緒に出かけた帰り、公園にいた勇を見つけた。でも、なんだか様子がおかしくて、声をかける。
「あの……えっと」
勇に声をかけていた女の子が、不審そうにオレを見つめる。
「あー勇の兄です」
「お兄さん?」その女の子はびっくりした声を出したけど、安心した顔になった。
「うん。勇、泣いてるみたいだけど、どうしたのかな?」
「あっ……えっと、大くんが酷いこと言って……勇くんには、お父さんもお母さんもいないから、かわいそう……って。そしたら、泣いちゃって、声をかけても何も言ってくれなくなって……」
女の子が説明してくれている間も、勇は動くこともオレの方を向くこともなく、こんなに近くにいるのに気づいていないようだ。一緒にいた幸也も心配そうに勇を見ている。
「そっか。教えてくれてありがとね」
勇の前にしゃがみ込み顔を覗き込むが、焦点が定まらず、目が合わない。
「勇……勇!!」
少し強めに呼ぶとビクッとして、やっとオレの存在に気づいた。
「こう……にいちゃん……」
勇に名前を呼ばれて、少し安堵する。
「うん。もう大丈夫みたいだ。勇は連れて帰るね。2人ともありがとね」
勇と幸也と3人になっても、勇はまだボーッと立ち尽くしていた。
「勇くん、大丈夫?」
幸也が勇に声をかけると、コクっとうなづき、声は届いているようだ。
「勇、お家に帰ろう」
そう声をかけると、ビクッと体を固くして、またうつむいてしまう。
「どうした、勇?黙ってたらわからないよ」
「うっ、うっ、うっ……」
泣くばかりで、何も話してくれず、勇の不安定さにオレも、焦り始める。
「幸司……じゃあ、2人とも僕のうちにおいでよ。ここからなら、僕の家の方が近いしさ。勇くんも僕の家ならいいでしょ」
幸也の入れてくれたココアを飲むと、勇も少し落ち着いてきた。オレが、どうやって話を切り出そうか迷っていると、幸也が勇に声をかける。
「勇くん、大くんって子に嫌なこと言われたの?」
勇は、少し困った顔をして、オレと幸也を見ると、小さくうなづく。
「ん……ボクはかわいそうだって」
「そうか……でも、どうしてそんな話になったんだ?」
勇が話したことにホッとして、オレも後に続く。
「ボクには……お父さんも、お母さんもいないから……」
そこまで言うと、勇はオレの顔をじっと見て言葉を続ける。
「広くんは、幸兄ちゃんのお父さんなんだよね……」
「ん?そうだね……」
勇が何を言いたいのかわからず、とりあえずうなずく。
「なんで、広くんは、ボクと一緒に暮らすことにしたの?……広くんは、ボクのお父さんじゃないのに」
「えっと……」
どうやって言ったら、いいのか言いよどむ。
何と言ったら、勇は安心できるのだろうか……
オレの逡巡に気づいたのか、幸也が言葉を繋げた。
「勇くん、本当のお父さんとお母さんじゃなくても、一緒に暮らしてもいいんだよ。僕もね、お父さんもお母さんもいないんだ。だから小さい頃から、ずっと叔母さんと暮らしてる。僕は叔母さんのことが大好きで、お母さんみたいな人なんだよ。勇くんは、おじさんのこととか、幸司のこと好きじゃないの?」
「……好き。広くんも幸兄ちゃんも大好き!!」
「勇……オレも勇が大好きだよ。そして、父さんも勇のことが大好きだよ。父さんはね、勇のお父さんになれたらいいなって思って、勇と一緒に暮らすことを決めたんだよ」
勇の顔をまっすぐに見て、ゆっくり話す。
「え?広くん、ボクのお父さんになれるの?」目をまん丸くして聞いてくる。
「一緒に暮らして、楽しい思い出をいっぱい作って、お互いに好きっていう気持ちがあったら、大丈夫だよ。勇は、広くんが勇のお父さんになるのはイヤ?」
「イヤじゃない!!ずっと、お父さんだったらいいのにって、思ってた……うっうっ……うわーん」
大声を上げて泣きじゃくる勇を、優しく抱きしめる。
「それなら、大丈夫。一緒に父さんのところに帰ろう」
幸兄ちゃんと家に帰り、リビングのドアを開けると、夕ご飯のいい匂いがした。キッチンにいた広くんが、ボクたちに気づいて手を止める。
「あれ?幸も勇も一緒だったんだ」
「あぁ。公園で会ったから一緒に帰ってきたんだ。な、勇」
幸兄ちゃんの手がボクの頭の上に乗っかり、ボクも「うん」と返事をする。
「みんなそろったし、手を洗ってご飯にしよう」
盛り付けを始めようとする、広くんに幸兄ちゃんが声をかける。
「その前に、勇が父さんに言いたいことがあるんだよな」
幸也くんの家から帰るとき、幸兄ちゃんは、これを言ったらいいって言っていた。ボクは、こんなこと言ってもいいのか不安だったけど、幸兄ちゃんは、広くんは絶対喜ぶからって言ってた。だから、ちょっと勇気を出して言ってみることにしたんだ。
「あ、あの……お、お父さん……って、呼んでもいい?」
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