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1時間目が終わっても、幸司は登校してこなくメッセージを送ってみたが、既読にならない。4時間目が終わっても何の反応もなく、電話をかけてみるが、それも同じだった。
今までこんなことはなかったのに……
「幸也。今日、幸司は休み?」
「うーん。連絡つかないんだよね……」
確か昨日は、おじさんが出張で勇くんと2人だったはずだ。何かあったんだろうか……
幸司が勇くんの事で、不安定になっているのは知っていた。先生には体調が悪いと言って、早退して幸司の家に急ぐ。家に着くまでの間も、電話してみたけど、やはり呼び出すばかりだった。
もう!!どうしたんだよ!
幸司の家の前で、インターホンを押すが全く出てくる気配がない。ただ、戸口に手をかけると少し開き、鍵はかかっていないようだ。少し中に入って、「幸司……」と呼んでみるが、やはり誰も出てこない。悪いと思いながら、靴を脱いで中に入り、リビングのドアを開けると、ソファーで丸くなっている幸司がいた。
「幸司……幸司!!」
少し大きめに声をかけると、幸司はゆっくり顔を上げる。
「幸也……?えっ……何で」
青い顔をした幸司が聞いてくる。
「何でって……連絡しても全然出ないしっ!心配するだろ!」
「あ……ケータイ……部屋だ……ごめん…えっ、もう昼過ぎ?!ちょっと休んだら、学校に行こうと思ってたのに……」
「そんな顔して何言ってんだよ……何があったの?」
「いや……」
「何もないなんて言うなよ!!」
こんな状態なのに、まだ頼ってくれない幸司にイラついて、つい大きな声を出してしまう。
「ごめん……」
謝って欲しいんじゃないのに、自分が幸司を責めているようで、自分に嫌気がさす。
「この間、僕のカッコ悪い部分見ただろ。どんな幸司でもボクは気にしないよ。今の幸司のしんどさを今度は僕がシェアする番だろ」
幸司の顔が歪んで、今にも泣き出しそうだ。だけど、ポツリポツリと話が、前後に飛びながらも話し始める。
勇くんと一緒に寝てお母さんの夢を見たこと、勇くんと一緒に、布団を濡らすほどのおねしょをしてしまったこと、勇くんに怒鳴ってしまったこと。途中からは、涙が止まらなく、小さい子のように嗚咽する幸司がいた。幸司は、おねしょをしたことも勇くんを怒鳴ってしまったことも、ものすごく自己嫌悪していて、とても、このままにしておける状態ではなかった。
「幸司、また僕の家においでよ。今日はおじさん帰ってくるんだろ。今、勇くんと一緒にいるのは、しんどいだろ。幸司は勇くんのことが好きだから、今は一緒にいるのは、辛いと思うよ」
「でも……」
「僕は、しんどそうにしている幸司を見てるのが、すごく辛い……僕の為に、家に来て……」
僕も泣きそうになりながら、幸司を抱きしめていた。
「ありがとう……幸也。オレ……最近……どんどんダメな自分になるみたいでこわい……たぶん……ずっと考えるのを避けてきた……母さんのことが関係してるんじゃないかと思ってるんだ……そこに向き合わないといけないと思ってる……でも、1人だと怖くて、先に進めない……幸也……一緒に……そばにいてほしい……」
そんなことは、お願いされるまでもない。僕は、抱きしめたまま何度も何度もうなづいた。
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