勇と幸司

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 昨日のカミナリが嘘のように、今日はいい天気で帰るときは、広くん……いや、お父さんと一緒にお月様が出ているのを見た。でも、ボクは今朝の失敗といつもと違った幸兄ちゃんを思い出して、心は晴れていなかった。 「勇、ご飯できたからお皿出すの手伝って」  お父さんに呼ばれて、テレビを消してキッチンへと向かう。今日は生姜焼きで、いい匂いが充満している。お茶碗とお椀を3人分出していると、お父さんに声をかけられる。 「あ、今日は、幸の分はいらないよ。幸也くんのところに泊まってくるみたいだから」 「えっ……今日、幸兄ちゃん帰ってこないの?」  今朝のことを思い出して、ドキッとする。幸兄ちゃんは、まだ怒っているのかもしれない…… 「うん。学校の課題がなかなか終わらなくて、幸也くんと一緒にお勉強するんだって……」  本当は、ボクに会いたくなくて、帰ってこないのかもしれない。 「ん?勇、どうした?」  お父さんは、お茶碗を持って固まっていたボクに近づいてきて、顔を覗き込む。お父さんと目が合うと、我慢していた涙が決壊したように流れてきた。 「うっ……うっ……お父……さん」 「どうした?幸がいなくて寂しくなった?」 「幸兄ちゃんは……うっうっ……ボクのこと……キライに……なちゃったのかな……うっうっ……だっ……だからっ……帰ってこないの……かな……」  今朝、初めて幸兄ちゃんが大きな声で、怒るのを聞いた。怒ってないって言っていたけど、あんな声を今まで聞いたことがなくて、ビックリしてちょっと怖かったんだ…… 「んー?どうして、勇のことキライになるの?」 「だっ……だって……おねしょ……しちゃって……幸兄ちゃんの……パジャマ……濡れちゃって……だからっ……ごめんなさいって謝って……いっぱい謝って……幸兄ちゃん……大丈夫って……大きい声で……怒ってるみたいで……」 「うん……そっか。でも幸は、怒ったんじゃなくて、もう謝らなくていいよって言いたかったんじゃない?」 「でっ……でも……」 「幸も朝だから、ちょっと眠たくて大きい声、出しちゃったのかもしれないよ」 「うん……」 「それに今日帰ってこないのは、幸也くんとお勉強するためだからね……」  お父さんは、ボクをギューと抱きしめて、ボクの涙が止まるまで、ずっと背中をさすってくれていた。
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