勇と幸司

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 勇が眠るまで一緒に添い寝をしていた。昨日は、出張で家にはいなく、カミナリを怖がった勇と幸司が一緒に寝ていて、勇の失敗で幸司のパジャマも濡らしてしまったようだった。  勇は、幸司のパジャマを濡らしてしまったことをひどく気にしていた。今日も僕のパジャマを同じ状態にしたら、もっと気にすると思い、勇が寝付くとそっと布団から出ることにした。勇は、不安定になっていると失敗しやすいから、明日の朝も、布団を濡らしてしまう可能性は高かった。  でも、最近は勇のことよりも幸司のことが心配だった。勇は今朝、幸司が怒ったと言っていた。怒ったと表現するくらいだから、大きな声でも出したのであろう。普段から、幸司は声を荒げることはない。それなのに勇に対して大きい声を出すのは、余程何かあったのかもしれない。  幸司は、何も話してはくれないけど、勇のことで悩んでいる様子は感じていた。だけど、幸司はもう高校生だし、こっちからどこまで踏み込んでいいものかと躊躇しているのも事実で、何もできないでいた。  勇を引き取る時、幸司とは時間をかけて話をしてきたつもりだった。勇と幸司の母親、そして僕の元妻の紗良(さら)が亡くなって半年程した頃、勇が入所していた施設の職員から連絡があった。  勇は、紗良からの手紙を持っていて、その中に兄がいることと僕の連絡先が書かれていたようだ。勇が、兄に会ってみたいと話したことから、連絡をくれたらしい。  紗良が亡くなっていたことは、ひどく驚いたが、子どもが出来ていたことには妙に納得できる部分があった。紗良が姿を消して、2年後に紗良の代理人だという弁護士が来て、離婚の話をされた。もう、婚姻にこだわってはいなかったけど、最後くらい紗良本人が来ても良かったのではないかと思った。  ただ、今考えると勇を妊娠していて、そのために離婚する必要あったのかもしれない。  その時の子が、今は誰も身内がいなく施設で生活していることを知ってしまうと、もう放っておけなかった。幸司は、母親が亡くなっていたことには、ショックを受けていたようだが、表立っては感情は出さす、勇のことも全く反対せず引き取ることを受け入れた。そんな幸司の優しさに、僕は甘えて無理をさせてしまっているのかもしれない。  でも、このままではいけないと思い、以前幸司の主治医であって、今も勇の学校医でもある篠田先生に相談していた。篠田先生は、今まで押し込めてきた母親のことが、勇の存在がきっかけで表に出てきたのではないかと話した。これから、幸司のことも勇のことも、先生にはお世話になるのかもしれない……。  勇の寝顔を見ながら、そんなことをボーッと考えていた。
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