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母さん
最寄りの駅から3つ離れた、映画館やゲームセンターなどが入っている大きなショッピングモールの近くに来ていた。このショッピングモールには、父さんや勇と3人で買い物に来たこともある。
篠田先生と話をすると決めてから、貰った名刺に書かれていたメールアドレスに、メールを送っていた。先生からはすぐに連絡が来て、土曜日の昼過ぎに会う約束をして、場所は先生から指定された。
先生に連れられて、5分ほど歩いているが、このショッピングモールが目当ての場所ではないらしい。歩きながら、小学生の頃の話を幸也と先生がしていて、オレはたまに相槌を打ったりする程度だった。
幸也が一緒に来てくれて、本当に良かった……
先生はある建物の前で立ち止まり「ここ」と言う。
「えー?歌でもうたうの?」
幸也がビックリした声を出したが、オレも同じ思いだった。
そこはカラオケBOXだった。
「個室で話したいときは、意外といいんだよ」
先生はそう言うと中に入っていく。
土曜日ということもあり、カラオケBOXはそこそこ人が来ていたが、予約していたようで、待つことなく部屋に案内された。
「ソフトドリンクは、飲み放題だから好きなの頼んでな」
オレは烏龍茶、幸也はジンジャーエール、先生はアイスコーヒーを頼む。オレと幸也は隣同士に座り、先生は幸也を挟んで90度の位置の横の椅子に座った。
「えっと、コウ……話を聞く前に言っておくけど、今回俺は医者の立場でなく、小学校の時の先生として聞くから、もし医者として関わってほしいなら、俺じゃない方がいいから、他の医者を紹介するよ」
何が大きく違うのかよくわからなかったけど、オレは篠田先生に話を聞いて欲しかった。
「いや。篠田先生がいいです。医者としてでなくても」
「わかった。あと、ユキも軽い気持ちでここにいるなら、初めから聞かない方がいいよ。深い話になるだろうし……」
オレはチラッと幸也の様子を伺う。
「大丈夫です。幸司と僕はしんどい時はシェアしていこうって決めたんです。だから、どんな話でも最後まで聞いて受け止める覚悟があります」
幸也がそう言うと、先生はニコッと笑ってうなづいた。先生の話を聞いて、オレの方が深く考えず幸也を巻き込んでしまったかもと思ったけど、幸也が何の迷いもなく話す姿を見て、オレも覚悟を決めないと、と改めて感じた。
「先生、オレ……今、あんまり調子良くなくて……たぶん、勇と一緒に住むようになってから……勇のことは好きなんだ。だけど時々、勇と一緒にいるのはしんどくなる……」
「うん」
「勇が失敗してるのを見ると、昔の自分を重ねてしまうこともあって……」
先生に体調が悪いのかと聞かれて、何て答えていいのか言い淀む。また、漏らしてしまっているとは言いずらかった。先生はそんなオレの様子に気づいたように、苦笑して話題を変えた。
「メールには、お母さんのことちゃんと考えたいって書いてあったけど、お母さんはどんな人だったんだ?」
今まで、母さんのことはあまり考えないようにしていたから、改めて聞かれると少し悩んでしまう。
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