母さん

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久しぶりに母さんのことを思い出して、ここまで一息に話たが、昔の気まずい思いや怒られた苦い思いも迫り上がってきて、苦しくなる。幸也も篠田先生も、真剣に話を聞いてくれて、オレの話が途切れると、シーンと辺りは静まり返った。 「大丈夫か?」と先生に声をかけられ、俯いていた自分に気づく。 「えっ……あーはい。昔のこと思い出したら、ちょっと……」 「少し休憩するか?しんどいならまた、別日でもいいし」 「いや……先延ばしにする方が、しんどいかも……」 こんな気持ちで帰りたくなかったし、こんな状態なら、今晩失敗するのは目に見えている。手をつけてなかった烏龍茶に口をつけて、少し落ち着く。 「ここまで詳しくは以前は聞いてなかったよな。小学生のときは、怒ると怖いけど、いなくなって寂しいって言ってたかな」 「今もだけど、正直、母さんのことはよくわからない……」 「どういうこと?」 そう聞かれて、考え込んでしまう。 母さんのことをどう思っていたのだろうか…… 感情的に怒る母さんは、怖かった…… だから、怒られないように気を張ってた部分はあったと思う。 でも……優しかった時もあった…… 一緒に遊んだり、お出かけしたり…… 「コウはお母さんのこと、好きだった?」 好きだった……でも、素直に言葉にできない自分がいる。何でかわからないけど、苦しくて、目に涙が溜まる。 何でオレ泣いてるんだろう…… 訳がわからない…… くるしい……くるしい……くるしい…… 「……ウ、コウ!ゆっくり息を吐いて。コウ、こっちみて」 気づくと、過呼吸になっていいるオレの背中を先生が摩っている。幸也も心配そうにオレの顔を覗き込んでいた。 「はっ…はっ…はっ…はぁ……はぁ……セン…セ……母…さんは……なんで……出て行ったの……かな……」 「え?」 「はぁ……はぁ……オレが……母さんのこと……怒らせてばっかり……だったから……だから……オレのこと……嫌になったのかなって……オレのせいで……母さんは……」 そうだ……母さんが出て行ったのは、オレが悪いからじゃないかって思っていた。 でも、父さんにもこわくて聞けなかった…… オレのせいで、母さんは出て行ったの?って…… 「ちがうよ!!」 幸也が大きな声を出す。 「ユキ……」 「幸司のせいではないよ!それは絶対にない!」 「ゆき……や……」 「そうだな……俺もコウのせいではないと思うよ。コウの話から推測しただけだから、断言はできないけど、たぶんお母さんは精神的な病気だったんじゃないか。気分が高まっている時は、後先考えず衝動的な行動をしてしまうんだ。お母さんもそうだったんじゃないかと思うな」 「え……」 「だから、コウのせいではないということ」 「そうなの……かな……」 「そうだよ!!」 また、幸也が大きく割り込む。 「あぁ。もう自分を責めなくてもいいんじゃないか?」 先生と幸也にそう言われて、少しだけ今まで心の奥底に閉じ込めていた重荷が軽くなるような気がした。
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